ワグネル反乱で揺れるロシア それでもウクライナ侵攻を続けられる根拠がある
ワグネルの反乱がもたらしたロシア国内世論の変化
民間軍事会社ワグネルの反乱でロシアが揺れている。
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ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が6月23日、ショイグ国防相らの更迭を求めて武装蜂起を宣言した。この反乱は1日で終結したものの、盤石に見えたプーチン政権のもろさが国内外に露呈してしまった。政権は事態の沈静化に躍起になっているが、「今後、ロシア国内でさらなる混乱が発生するのは必至だ」との憶測が飛び交っている。
実戦経験が豊富なワグネルの戦線離脱が、ウクライナ侵攻の今後の行方を左右する可能性も指摘されている。
ウクライナのゼレンスキー大統領は7月1日、「(ワグネルの反乱について)戦場におけるロシアの能力に影響を及ぼした」と語り、ウクライナ軍が反攻を進める上で有利に働くとの認識を示した。反転攻勢を開始してから1カ月が経ち、当初の計画より進軍が遅れている状況下で、ロシアの混乱はゼレンスキー氏にとって願ってもない朗報だっただろう。
これに対し、ウクライナ国防省と西側の軍事専門家は「ワグネルの戦争への関与低下による影響は限定的だ」と冷ややかだ。ワグネルが中心的な役割を果たした地域は、ウクライナ東部のバフムト周辺。ただし、1000キロメートルにおよぶ戦線のうち、ワグネルの活動範囲はごく一部だった。さらに、ワグネルの戦闘員は多くが既に前線から引き揚げており、「現時点でワグネルは戦争で重要な役割を担っていない」との指摘もある(6月29日付ブルームバーグ)。
ワグネルの反乱は戦況に劇的な変化をもたらさなかったようだが、ロシア国内の世論に変化をもたらした。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターが6月30日に公表した報告によれば、ワグネルの反乱後にウクライナとの和平交渉を支持するロシア国民の割合は前月の45%から53%に増加した。
だが、早期に停戦交渉が開始される可能性は皆無だろう。
ゼレンスキー氏は7月1日、「(ロシアとの停戦交渉について)ロシアの実効支配下にある南部クリミア半島を含む自国本来の領土を回復した後にのみ可能だ」とする認識を示した。原則的な立場を改めて示したわけだが、「この原則に固執している限り、ロシアとの停戦交渉は永遠に開始されないのではないか」との不安が頭をよぎる。
侵攻後も堅調さを維持するロシア経済
ウクライナは西側諸国の支援を頼りに長期戦の構えを見せている。この戦略を成功させるためには、ロシア経済が疲弊し、継戦能力を喪失することが肝心だが、はたしてウクライナの思惑通りに事が進むのだろうか。
ワグネルの反乱後、ロシアの通貨ルーブルの売りが優勢となっている。今年のインフレ率を6.5%以内にとどめたいロシア中央銀行は、通貨安によるインフレを防止するため追加の利上げを行う姿勢を示している(6月28日付日本経済新聞)。
足元の通貨安は確かに気になるが、ウクライナ侵攻直後の下落ほどの深刻さはなく、ロシア経済への打撃は軽微なものにとどまるだろう。
ウクライナ侵攻後に厳しい制裁を科されたロシア経済は、壊滅的な打撃を被ると予想されていた。だが、インドや中国といった新興の大国が西側諸国の制裁に同調しなかったことが幸いし、危機を脱した感が強い。
米戦略国際問題研究所(CSIS)は今年4月下旬「『制裁によるロシア経済の崩壊』という束の間の期待は打ち砕かれた。制裁はロシアの戦争遂行能力をある程度低下させているが、戦争を速やかに停止させるという目標はもはや実現不可能だ」と結論づけている。
ロシア経済は堅調さを維持している。
ロシア中銀は、今年第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年比4.2%になるとの見通しを示している。
エネルギー輸出収入が減少している中、ロシア経済を牽引しているのは製造業だ。S&Pグローバルが7月3日に発表した6月のロシア製造業購買担当者景気指数(PMI)は52.6と、好不況の分かれ目となる50を14カ月連続で上回った。
これまで内需が製造業の牽引役となっていたが、6月に入ると輸出受注も増加に転じた。
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