【棋聖戦】藤井七冠が佐々木七段に勝利 中盤は「手を渡す」局面が続き、やや拍子抜けする投了

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早かった佐々木の投了

 藤井の107手目「8六銀」を見た佐々木は投了した。まだ午後6時37分だった。佐々木は藤井より持ち時間を消費していたとはいえ「1分将棋」には追い込まれておらず、2分を残していた。

 投了の盤面では、佐々木の陣内に食い入っている藤井の駒は「8二」の成香だけ。佐々木の玉は成香からもずっと離れた「3一」にある。9筋からの藤井の飛車の成り込みが防げず、それがそのまま王手になってしまう状況ではあった。とはいえ、投了してしまう局面には見えず、正直、やや拍子抜けした。プロの眼には「もう勝てない」ということなのだろうが……。

 これについて門倉五段は「投了図からも終わるまでは何十手もかかります。粘りの佐々木七段でも難しいと判断されたんでしょう」と話した。

 対局後、佐々木は「先手に手厚く丁寧に指されて、チャンスのない将棋にしてしまった」と振り返った。わずかなチャンスも見えなかったための早い投了だったようだ。

 屋敷九段は「全体的には藤井棋聖の力強い差し回しでしたが、途中から手を渡すような難しい中盤に入りました。最後は(藤井が)手堅く抜け出した内容の濃い将棋でした」と総括した。

 門倉五段は「『6八玉』から『9七桂』など、そこも用意していますよという感じ。その後の玉捌きも普通では選ばないような捌きをして独壇場でした。久しぶりに“藤井劇場”を見たなという気がします。佐々木七段は残念でしたけど、次局以降、頑張ってほしい」と話した。

よくしゃべった感想戦

 この一局を加藤一二三九段(83)は《藤井棋聖がスケールの大きな将棋を見せました。(中略)9筋に跳ねた桂は見た瞬間、「? 強引じゃないか」と思いました。ソッポですが、よく考えてみるとここから8筋に飛車を転回させての攻めが成立しています。研究成果と推察しました。その後は強気の受けで、あえて佐々木七段に桂を7筋に打たせました。厳しい攻めですが、かわしました。「肉を切らせて骨を断つ」。藤井将棋の真骨頂です》と絶賛する。(日刊スポーツ7月4日付「ひふみんEYE」より)

 藤井自身は「珍しい形から動いていったのですが、構想の立て方、局面の見方が分からず、難しい将棋だったと思います」と振り返る。

 大盤解説場での挨拶で佐々木は聴衆を何やら笑わせ、感想戦でも2人はよくしゃべっていた。7月7日から王位戦七番勝負も始まり、前夜祭などもあるので、この夏、2人は2日に1回は顔を合わせるような状況になっている。

 対局後、藤井は「これまでの3局はどれも難しい将棋でした。それを振り返って次も頑張りたいと思います」と話した。一方、タイトル初奪取の夢に向けて後がなくなった佐々木七段は「気持ちを奮い立たせて、フルセットに持って行けるようにしたい」と話した。

 棋聖戦の第4局は7月18日に新潟県新潟市の「高志の宿 高島屋」で行われる。

 一方、史上初のタイトル全冠(八冠)を狙い、現在、挑戦者決定戦に進出している王座戦の藤井の対戦相手を決める準決勝が、この日、将棋会館(東京・千駄ヶ谷)で行われ、豊島将之九段(33)が渡辺明九段(39)を下した。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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