家族の死、障害、不治の病… ドラマ「かぞかぞ」が描く生活感が好物すぎる理由
第1話のラストで「家族の死、障害、不治の病。どれかひとつでもあれば、どこぞの映画監督が世界を泣かせてくれそうなもの。それ、全部、うちの家に起きてますけど」と締めたのが「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」。もう初回から好物の予感しかない。関西弁の柔らかさと鋭さ、飾らないヒロインの地続きの生活感にノックアウトされた。
【写真を見る】主人公を演じるのは22歳の若手実力派「河合優実」
父親(錦戸亮)は若くして亡くなり、母(坂井真紀)は大動脈解離による下半身まひで車椅子生活に、弟(ふとした表情が可愛い吉田葵)はダウン症。かわいそうな家と同情されることに違和感を覚え、紆余曲折を経て、執筆活動に入る主人公・岸本七実。演じるのは河合優実。「17才の帝国」(2022年・NHK)でインテリ女子を演じて以来、彼女のことが気になっている。今回の役も賢くて自分の言葉を持っている役だ。家族に不運は起きたが不幸ではない。悲しみや絶望を経験してはいるが、へこたれない努力家でもある。やや無鉄砲で事務作業やルーチンワークが不得手、突飛で多動的な一面もある七実を好演。
七実が不幸ではない最大の理由は、世間体に疑問を抱いているから。そして本質を捉える人々に囲まれて救われているからでもある。高校の同級生(これまた適役の福地桃子)は母親がマルチ商法に洗脳され、近隣で勧誘しまくったためにクラスでは敬遠されている。あだ名はマルチ。七実は七実で「可哀想な家の子」とされ、浮いてはいる。世間体というフィルターを通す同級生と異なり、ふたりは知性とユーモアでつながる。友情も程よい距離で心地よく、毒も棘もあって絶妙。女子の友情、これが正解。
無気力だったが急に全力で英語を教えてくれた教師(松田大輔)や、適温で見守ってくれる宅配便の兄さん(奥野瑛太)など、人に恵まれていることも大きい。七実の人柄や才能を信じる編集者(山田真歩・林遣都)にも出逢い、運も縁も引き寄せる。不幸でもかわいそうでもないと思わせる軽妙さ。
七実が社会に出て、家族のために鼻息荒く猪突猛進するも、なんやかんやで空回り。もがけばもがくほど家族の自立が見えてくる展開もいい。障害のある人をサポートするベンチャー企業に入ったのも、母を支えたい一心だったが、実際に母が求めたのは子供に頼らない転職の道。ダウン症の弟は誰とでも仲良くできて友達もいて買い物もできる。社会とうまく付き合えないのは自分だと気付く。
家族のための滅私は美談になるが、それが本懐でもなければ本質でもないというメッセージがぐいぐい伝わってくる。亡くなってはいるが、画面上にちょいちょい登場する(弟に召喚される)錦戸の存在はファンタジーではあるが、弟のくもりなき眼の象徴でもあり。見せ方がうまいなぁと思う。
そうそう、ファンキーな祖母(美保純)の存在も重要。劇中「おばあさんは国の宝」というセリフがあったが、娘も孫も突き放すくらい楽観的で明るい祖母は確かに宝。言霊の宿らせ方がささやかだが、胸に響く。