「スラムダンク」の聖地を抱える「江ノ島電鉄」が大混雑でも減便しなくてはならない深い事情

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30両の電車が在籍

 一方で江ノ島電鉄には30両の電車が在籍している。冒頭に記したようにすべての車両が2両1組となっていて、大多数は2両1組を2つ連ねた4両で運転されているから、4両が7編成に2両が1編成という構成だ。運用本数は6なので、4両6編成を営業に用いたうえで、4両1編成と2両1編成とは営業に使用しない。営業に用いられない車両は車両が故障したときの予備を務めたり、法規で定められた定期検査を受けたりしている。

 ダイヤ改正後、藤沢駅から鎌倉駅までの時間は37分、折り返し時間は5分で折り返し時間を含めた運転時間は42分、運転間隔は14分となった。運用本数を求めると、42÷14でやはり3、鎌倉駅から藤沢駅までの列車も同様に3となり、ダイヤ改正前と同じく6である。

 もしもダイヤ改正後の条件で運転間隔だけ12分のままとしたら、運用本数はどうなるであろうか。藤沢駅から鎌倉駅までの場合は42÷12から3.5で、これは切り上げて4と考えるべきだ。鎌倉駅から藤沢駅まででも条件は同じで4となり、結局必要な運用本数は8となる。

江ノ島電鉄の立場から言うと

 繰り返すが、江ノ島電鉄には4両7編成、2両1編成の電車が在籍しているので、合計8編成分の電車があることになる。すべてを稼働させれば何とか12分間隔での運行は可能だ。しかし、車両の故障が発生したら大混乱となってしまうであろう。それに定期検査を受けることができないので、監督官庁の国土交通省からお目玉を食らうのは間違いない。

 それならば車両を増やせばよいとはこれまた誰もが考える。けれども、コロナ禍で経営が悪化しており、1両1億円とも言われる電車を導入する余裕は江ノ島電鉄にはないであろう。それに車両を増やすためには車庫を拡張しなくてはならない。

 同社の車庫は極楽寺検車区といって稲村ケ崎駅と極楽寺駅との間に設けられている。筆者がかつて取材で訪れた際の見立てを述べると、現在の30両でも手一杯で、新たに車両を置く余裕はないように見受けられた。となると車庫を広げればとなるが、車庫周辺をはじめ、江ノ島電鉄線沿線は家屋が建て込んでいて車庫分のスペースを確保するのは大変だ。

 江ノ島電鉄の立場から言うと、定時運行の確保と12分間隔での運行とが両立できない理由として、資金面であるとか敷地の問題とは言いたくなかったのであろう。だから「定時運行を確保するため、そして旅客の利用動向を踏まえたもの」といういささか抽象的な説明になったのではないか。

 かくして行楽シーズンの大混雑は残念ながら今後も続く。混雑が嫌ならば、どうしても江ノ電に乗りたいという人を除いて、他の交通機関を利用するほかない。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965(昭和40)年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊「鉄道ファン」編集部などを経て、2000(平成12)年に鉄道ジャーナリストとしての活動を開始する。著書に『JR貨物の魅力を探る本』(河出書房新社)ほか多数。新聞、テレビ、ラジオなどで鉄道に関する解説、コメントも行い、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談室」では鉄道部門の回答者を務める。

デイリー新潮編集部

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