リクルート事件、“贈り主”の企業側で何が起こっていたのか 現代の危機管理にも通じる新事実の数々とは
盗撮計画を事前に把握
さらに、ボタンの掛け違いは続く。
「松原氏が楢崎議員に賄賂を渡そうとしたのは8月上旬のこと。このときは楢崎議員が受け取りを固辞し、贈賄は未遂に終わっているんです。ところが、8月末になって、今度は松原氏が楢崎議員の事務所に呼び出された。楢崎議員は再び賄賂を持ちかけさせ、それを日テレに隠し撮りさせる魂胆で、松原氏はこれにまんまとはまってしまった格好。でも、実はこの“盗撮計画”についても業務部は事前につかんでいたんです」(同)
情報は日テレがネタ元にしていた、ある情報誌の主幹からのものだった。
「その主幹の親族がリクルートの社員だったことから、業務部は盗撮計画を事前に把握。それをコスモス社に伝えていたにもかかわらず、松原氏は逆に焦って更なるアプローチを仕掛け、彼らの餌食となった。もちろんこれは松原氏だけの判断ではなく、渡したお金も江副氏が懇意にしていた不動産業者らを含め八方手を尽くして捻出したものだった。つまり、江副氏が社内の情報を信用せず、独断と偏見で打った悪手だったのです」(同)
「人」、「物」、「金」、「情報」。言うまでもなく、これらのどれを欠いても企業の経済活動は成り立たない。ところが、これらのどれもがわずかなボタンの掛け違いでスキャンダルのリスクとなってしまう。
事件から35年が経過した今でも、われわれはそのことを肝に銘じておくべきであろう。とりわけ成功を追い求めるベンチャーの経営者にとっては、リクルート事件はリスク管理体制を整備するための他山の石となるに違いない。
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