ミドルアッパー市場のトップランナーになる――大江伸治(三陽商会社長)【佐藤優の頂上対決】
店とECを回遊するモデル
佐藤 かつてその主な販路は百貨店でした。その百貨店がどんどんなくなっています。
大江 確かに百貨店は成長産業ではなくなりました。店舗数が多すぎて過当競争になっていた。私どもも、このコロナ禍の約3年で250店舗ほど撤退しています。
佐藤 それは大きな数ですね。
大江 ただ、もう百貨店は相当に淘汰され、適正規模になったのではないかと思います。そして全体のフロア面積が縮小したことで、残存店舗の価値が上がっている。
佐藤 今年は百貨店への出足が戻ったというニュースが散見されます。
大江 百貨店も構造改革を進めてきましたし、店内の空間演出もどんどん洗練されているんですね。このため、百貨店ビジネスにおける採算構造が合理化されて、損益分岐点が下がっています。その新たな条件のもとで適正なプロフィットシェア(利益分配)ができるようになったので、私どもは再出店も含め、少し出店を増やす方向に切り替えました。今期、すでに13店の新規出店が決まっています。
佐藤 ともに危機を乗り越えて強くなったということですね。
大江 やはりミドルアッパー市場やラグジュアリー市場の基幹となる売り場は百貨店ですし、百貨店もそこがコアな顧客層になります。その位置付けはいまも変わっていません。
佐藤 一方で、EC(電子商取引)も行われていますね。
大江 ECの売り上げは年に50%くらい伸びていまして、全体の14%まで上がってきました。ただ弊社の場合は、オンラインを闇雲に拡大するのではなく、OMO(Online Merges with Offline)という形で、リアル店舗との相互補完体制、連動体制を目指しています。
佐藤 リアル店舗で見て、ネットで買う。
大江 ええ、あくまで基軸はリアル店舗で、ECはその補完です。ですからECを切り離して運営するのではなく、店舗と連動させる。お客さまには店舗購買とEC購買の二つのオプションを持ってもらい、それを使い分けていただきます。
佐藤 画像だけでは、着心地がわかりませんからね。
大江 その上、私どもの商品は高付加価値、高額商品です。しかもシーズンごとに刷新しています。ですからECの画面だけを見て、商品価値を判別することは難しい。やはりブランドビジネスですから、店舗を演出して、その世界観を感じていただくことも重要です。ECの方が圧倒的に利便性は高いですから、お客さまにはECで商品を知り、実際に来店されて商品を見て試着し、そこで購買されてもいいですし、お帰りになってECで購買していただいてもいい。ECと店舗を回遊していただくようにしたいのです。
佐藤 もうすでにそういう動きは出てきていますか。
大江 回遊率はすごく上がっていますよ。いい形で推移してきていると思います。
佐藤 構想通りに進んでいる。会社全体としても、とてもうまく回り始めています。
大江 黒字転換後に、どう成長軌道を確保するかまでを考えることが、本当の改革です。また誰かの個人的な能力でしかなしえない、というのは本当の改革ではありません。私の仕事は、誰がやっても同じ結果が出るようなスキームを作ることです。
佐藤 まさにプロ経営者ですね。
大江 ゴールドウインは、私がいなくなった後も、その路線を維持しながら成長戦略を展開し、時価総額は私が入った時の70億円から5500億円にまで成長しました。しかも営業利益率は20%近い。この三陽商会でも、そうした基盤作りができればと思っています。
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