「マイナはデジタル弱者をはじき出す制度」 オンライン機器導入で「廃業」の病院も

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回線工事だけで300万円、という例も

 今後、さらなるトラブルの温床となり得るのが「マイナ保険証」である。

 政府は来年秋に従来の保険証を廃止し、マイナカードにその機能を一本化しようとしている。すでに、マイナ保険証の運用も一部で始まっているものの、医療現場からは悲鳴が聞こえてくる。医師らを悩ませる要素の一つが今年4月に義務化された「オンライン資格確認」。カードリーダーを医療機関に設置し、マイナ保険証をかざすだけで保険証情報を呼び出せるというシステムだ。

「オンライン資格確認を導入するための回線工事で300万円もかかったという開業医がいます」

 とは、北原医院院長で大阪府保険医協会副理事長の井上美佐氏。

「その回線はNTT東日本・西日本のフレッツ光でないとダメだというのです。私の医院はたまたまフレッツ光だったのですが、そうでないところは敷き直さなくてはならない。そもそもオンライン資格確認を導入すると補助金が約40万円おりるとはいえ、これは機器の設置費用に使われ、回線工事などの導入費用でさらに100万円もの大金がかかってしまう病院もありました。このシステムは、導入するのにお金ばかりかかってしまうんです。そこまでのお金を払えない、と廃業を検討する医院もあるほどです」

「責任を現場に丸投げ」

 旧電電公社が母体となっているNTTグループは、政界との癒着がこれまで散々指摘されてきた。自民党の政治資金団体に多額の献金を行い、マイナンバー事業も多く受注している。

 厚労省の担当者によれば、

「特別NTTに限定するような技術的要件を申請要項に書いているわけではありません。ただ、他の業者さんで不具合があったというのは聞いているので、あまり(他社を)推奨はしていない感じですね。問い合わせがあれば、(NTTを)推奨するようにしています」

 オンライン確認システム導入にNTTの回線を推しているのだから、政府を挙げて全国の病院に同社の商品を張り巡らせ、特定の企業をボロ儲けさせていると言っても過言ではない。

 さらに、患者の負担も増すことになる。何らかの不具合によりオンライン資格確認での保険証確認ができなかった場合、患者が医療費の10割負担を強いられる懸念が指摘されている。10割を請求されたケースは現時点でも全国で900件ほど確認され、慌てた政府はマイナカードの生年月日を確認できれば10割を請求しないで済むよう対応マニュアルを改定した、としている。しかし、先の井上氏は憤る。

「でも、もしその人物が保険に未加入だった場合、7割を医療機関が負担することになります。それにマイナカードには患者さんがどこの保険に加入しているかについての記載がありません。われわれはどの保険者に問い合わせればいいのでしょう。政府は責任を現場に丸投げしているようにしか思えません」

 井上氏によれば、マイナ保険証を使用した際、医療機関のコンピューターで「澤」や「濱」など、旧字体が表示されず、黒丸になってしまったり、患者の自己負担率が誤って表示されるなどの細かいトラブルが発生しており、効率化とは程遠い状況だという。

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