春ドラマ「ベスト3」 木村拓哉「教場0」 最終回で回収された第1話の伏線に唸らされる

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2・テレビ朝日(制作・朝日放送)「日曜の夜ぐらいは…」

 主人公・岸田サチ(清野菜名・28)と野田翔子(岸井ゆきの・31)、樋口若葉(生見愛瑠・21)の友情物語かと思っていたら、理想の疑似家族がつくられるまでの物語だった。

 3人の友人・市川みね(岡山天音・29)、サチの母・邦子(和久井映見・52)、若葉の祖母・富士子(宮本信子・78)が加わり、計6人が実際の家族以上に固く結びつく。

 6人は全員、家族愛に恵まれなかった。サチと若葉は親からたかられ、翔子は家族から絶縁された。みねは母子家庭で育ったが、親孝行をする前に死なれてしまう。それが強く心残りになっていた。

 家族愛への飢餓感に駆り立てられるように6人の関係は急に緊密化する。観ていると、友情の意味を考えさせられる一方、家族とは何かを思案させられる。

「親ガチャ」という言葉が普及した。脚本を書いている名手・岡田惠和氏(64)は、血の繋がった親や子がろくでなしなら、自分の手で家族的存在を見つければいいと訴えたかったのではないか。

 物語の当初、サチはファミレスの店員で半身不随の邦子と2人で暮らしていた。ヤングケアラーで、ワーキングプアだった。

 サチとバスツアーで知り合ったのが、タクシー運転手の翔子。底抜けに明るいが、家族から疎外されている。友人もいない。孤独だった。

 やはりツアーで出会ったのが、ちくわぶ工場で働いていた若葉。祖母の富士子と生活を共にしていた。若葉には母・まどか(矢田亜希子・44)がいるものの、金づるとしか見られていなかった。邦子と離婚したサチの実父・中野博嗣(尾美としのり・57)もそう。サチに金をせびる。まどかも博嗣もクズのような親だった。

 そんな心が曇り続けていた日々が大きく変わる。サチ、翔子、若葉の3人がツアー中に買った3枚の宝くじのうち、1枚が1等3000万円に当たった。これが疑似家族をつくるための資本金となった。

「3枚で当たるような奇跡が起きるのはおかしい」と批判する向きもあったようだが、そんなことはない。宝くじ公式サイトなどを見れば数枚でも当たることが分かる。

 サチの発案で3人はカフェを開業することにする。ツアーの常連・みねも仲間に加わり、やがて金庫番になる。

「どうするんですか、僕が悪い奴だったら」(みね、第5話)
「人生って、信用できる人と出会う長い旅だと思うんですよ。私たちは出会ったんですよ」(若葉、同)

 邦子、富士子との巡り合いもそう。この作品が描いた奇跡は宝くじ当せんではなく、実の家族より信頼できる6人の出会いだった。

3・TBS「日曜劇場 ラストマン-全盲の捜査官-」

 刑事ドラマという触れ込みだったものの、終わってみると、家族の物語の色合いが強かった。

 主人公で全盲のFBI捜査官・皆実広見(福山雅治・54)とそのパートナーの警察庁警部補・護道心太朗(大泉洋・50)は兄弟だった。それが分かったのは最終回。うまいフィナーレを用意していたものである。作品は最後まで盛り上がり続けた。

 毎回、楽しめた。「日曜劇場」の制約にも押し潰されなかった。「日曜劇場」はスポンサー事情やファミリー向けの放送枠であることなどから、明るい作品が求められる。この作品は殺人事件や血縁の問題を描いたので、明るくするのは簡単ではなかったはずだが、暗さを目立たせなかった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。大学時代は放送局の学生AD。1990年のスポーツニッポン新聞社入社後は放送記者クラブに所属し、文化社会部記者と同専門委員として放送界のニュース全般やドラマレビュー、各局関係者や出演者のインタビューを書く。2010年の退社後は毎日新聞出版社「サンデー毎日」の編集次長などを務め、2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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