春ドラマ「ベスト3」 木村拓哉「教場0」 最終回で回収された第1話の伏線に唸らされる
春ドラマが次々と最終回を迎えた。面白い作品が多かった。そのうち、プライム帯(午後7時~同11時)の作品の中からベスト3を選ばせていただきたい。
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1・フジテレビ「風間公親-教場0-」
まず脚本が良かった。人気ミステリー作家・長岡弘樹氏による小説を、フジ「踊る大捜査線」(1997年)などを手掛けたベテランの君塚良一氏が脚色しただけのことはあった。
春ドラマには刑事ドラマが5本あった。ほかの4作品は刑法や刑事訴訟法を度外視したが、この作品は法を守った。刑事ドラマが法に従おうとすると、それが足枷となり、ストーリーづくりは難しくなるが、その分、リアリティは高まる。この作品はリアリティを優先した。
数年前まではリアリティ重視の刑事ドラマも多かった。元新聞記者の横山秀夫氏(66)が原作小説を書いたテレビ朝日「臨場」(2009年)などである。しかし、最近はリアリティを度外視する作品ばかり。ストーリーの自由度が高いからだ。視聴者ニーズを考えると、どちらのタイプの刑事ドラマもバランスよくあるのが望ましい。
「教場0」は、近年の刑事ドラマでは珍しく謎解きも楽しめた。第1話のホストクラブ経営者殺人では、タクシーのGPSを使ったトリックなどに疑問の声が上がったらしいが、ミステリーは本格的にしようとするほどトリックが奇抜になってしまいがち。アガサ・クリスティや横溝正史の作品を例に挙げるまでもない。
作風は一貫してダークだったものの、何度か胸を衝かれた。最終回にもそんな場面があった。主人公の刑事指導官・風間公親(木村拓哉・50)付きの事務員で、いつもヘラヘラしていた伊上幸葉(堀田真由・25)が、警察官になると宣言した場面である。
「試験を受け直して警察官になります」(伊上)
若者が志を立てる姿は理屈抜きに美しい。風間の指導を受けて1人前の刑事になった瓜原潤史(赤楚衛二・29)、隼田聖子(新垣結衣・35)、鐘羅路子(白石麻衣・30)、中込兼児(染谷将太・30)らを見るうち、自分も社会正義の実現に関わりたいと考えたのだろう。
無論、凶刃に倒れ殉職した遠野章宏(北村匠海)の遺志を受け継ぎたい気持ちも内に秘めていたはず。最終回の隠れたハイライトの1つだった。
第1話で敷かれた伏線も最終回で回収された。妻をひき逃げした男を密造銃で射殺した町工場社長・益野紳祐(市原隼人・36)が、風間に向かって放った言葉が伏線である。益野は自分を追い詰めた瓜原の指導官の風間に一目置き、こう言った。
「警察学校(教場)の教官になれ。そうすりゃ、出来の悪い警察官が減る」(益野)
益野がひき逃げ犯を殺さざるを得なかったのは警察の捜査が甘かったから。出来れば殺人など犯したくなかったのだ。
益野の要求を受け入れたわけではないが、風間は最終回の後半で教場の教官になった。その直前、警察官2人が違法逮捕を行う。風間は教場での教育の重要性を再認識させられることになる。
警察官2人は、15年の服役後に遠野を千枚通しで刺し殺したと思われる十崎波琉(森山未來・38)を「転び公妨」で捕まえた。転び公妨とは、警察官がわざと転び、マークしている人物を公務執行妨害で現行犯逮捕すること。新左翼などを取り締まる公安部門の刑事たちが実際に使う手法とされているが、もちろん法では認められていない。刑事ドラマで描かれるのは初めてだろう。
風間は2人に対し「警察学校は職質(職務質問)のやり方を教えていないのか!」と激怒。2人の胸元を掴んだ。この物語で初めてのことで、よほど腹に据えかねたのだろう。
一方、十崎は釈放された。当然だった。この作品の最大のテーマは「警察組織内の教育」だったのだから。遠野の仇討ちという浪花節的な理由で違法逮捕を許したら、何を描く作品だったのか分からなくなってしまう。警察組織内の教育者である風間の任務に終わりがないことが浮き彫りにされた。
その後、十崎は教場の教官になった風間のところへ現れ、「妹はどこだ?」と問うた。ここで物語は終わった。それから先の物語は視聴者の想像に委ねた。おそらく十崎の妹は彼の15年の服役中、どこかへ消えた。十崎は自分を逮捕した風間が妹を隠したと考えているのだろう。
物語の続きを観る側に想像させる手法はそう多くはないが、奇手ではない。海外ドラマではよくある。同じフジの「ミステリと言う勿れ」(2022年)もそうだった。視聴者の数だけ結末があるというわけだ。
ただし、あらかじめ映画化を狙い、この最終回を用意したのなら、いただけない。視聴者は映画化を想定せず、純粋な気持ちで毎週ドラマを観ていたのだから。仮に続編をやるならビジネス臭が強い映画ではなく、ドラマにすべきだ。
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