「中野サンプラザ」本日閉館 50年前、オープニング記念公演に行った男性の証言「あれほど驚いた演奏会はありません」
サンプラザなき中野は“渋谷化”する?
かくして「JCS」日本初演は、サンプラザのステージを、ほぼそのまま生かした異例のヴィジュアルとなった。出演は、イエス:鹿賀丈史、ユダ:飯野おさみ、マリア:島田祐子(二期会)、ヘロデ王:市村正親、アンナス:もんたよしのり、シモン:ピートマックJr.(のちに「ルパン三世のテーマ」を歌う/2009年没)……。
このほか、群衆のなかに、劇団四季に入団直後の久野秀子がいた。のちに『キャッツ』などで日本を代表するミュージカル女優となる、久野綾希子(2022年没)である。
演出は浅利慶太。演出補は出口典雄(2020年没)。出口は、このあと、劇団シェイクスピア・シアターを立ち上げ、世界初、「1人の演出家によるシェイクスピア全37作品の演出・上演」を達成することになる。それは「JCS」にどこか通じる、「装飾性のない」「ジーンズ姿」のシェイクスピアだった。
指揮の若杉弘は、このあと、ドイツに活動の軸を移し、ドレスデン国立歌劇場などで活躍、オペラの巨匠となっていく。
「JCS」は劇団四季の重要レパートリーとなり、これ以降、同劇団は、作曲者A.L.ウェバーの作品「キャッツ」「エビータ」「オペラ座の怪人」などを次々と日本初演するのである。
そしてサンプラザは、オリジナルのロック・オペラを主催公演で生み出すようになる。「ハムレット」(桑名正博)、「イダマンテ」(近藤真彦)などは何度か再演された。サンプラザは〈ロック・オペラの殿堂〉でもあったのだ。
「〈クラシックの殿堂〉になると思い込んでいたのは、たしかに若気の至りでした。でもサンプラザの『JCS』日本初演は、日本のエンタテインメント新時代を切り開いたような気がします」(森重さん)
サンプラザの閉館・解体後、北口一帯は、2028年開業を目指して、高層タワーや7000人収容の巨大ホールができるという。新たに西口改札もできる。すでに南口にはオフィスと住宅の巨大ツインタワーがほぼ完成している。「100年に一度の再開発」といわれる所以である。
「おそらく完成後の中野駅周辺は、四方八方から人が押し寄せて、まともに歩くのも困難な、“第二の渋谷”になると思います」(同)
そのとき、ここに「中野サンプラザ」があって、N響が演奏し、「ジーザス・クライスト・スーパースター」が初演された地であることを、どれだけのひとが覚えているだろうか。