閉館決定「俳優座劇場」の70年 こけら落としに集まったスターたちとは?

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 昭和29年に開場し、戦後の新劇ブームをけん引した東京・六本木の俳優座劇場が再来年の4月に閉館することになった。

 演劇記者が解説する。

「六本木交差点の近く、地下鉄六本木駅から徒歩1分という立地。客席は300ほどですが、観劇のしやすさには定評がありました」

 俳優座のほか他劇団にも開放され、芸人のライブ会場としても利用されてきた。

「ここ数年はコロナ禍で長期休館を余儀なくされ、経営が厳しかった。施設の老朽化も閉館の理由です」

 俳優座劇場は文学座、劇団民藝とともに「新劇の三大劇団」と親しまれた俳優座の拠点として設立された。

「文学座が新宿区市谷で、民藝が港区青山で劇場の建設計画を進めていた時期もありました。ところが土地の取得費や建設費が工面できず、いずれも計画が頓挫してしまった」

 結局、俳優座だけが建設にこぎ着けたそうだが、

「経営は火の車が続き、東野英治郎、小沢栄太郎といった名優らが1年ほど舞台を休んで映画に“出稼ぎ”に行ったほど。出演料の7割を劇団に納めて建設費を捻出したんですよ」

「劇団への直接的な影響は少ない」

 こけら落とし公演はギリシャ喜劇「女の平和」で、100人もの団員が出演したという。開場記念公演では、文学座と民藝との合同で「かもめ」が上演され、俳優座から東山千栄子、文学座から杉村春子、そして民藝から滝沢修という当時のスターがそろい踏み。その後も仲代達矢、加藤剛、市原悦子、栗原小巻らが登場して大いに賑わいを見せた。

「昭和55年に大改築が施され、劇場を併設する9階建てビルに生まれ変わった。俳優座の事務所と稽古場は5階と6階にありますが、最近は公演の数も年に数回程度まで減っていました」

 男女約100人の俳優が所属する劇団の正式名称は有限会社劇団俳優座。自前の劇場と舞台美術の工場を持ち、それを運営する株式会社俳優座劇場とは別法人だ。

「そのため、劇場が閉館しても劇団への直接的な影響は少ないでしょう。来年には俳優座が創立80周年という節目を迎えるので、すでに多くの記念公演が組まれています。それらは俳優座劇場で公演できますが、閉館した後は新たな公演場所を見つける必要があります」(関係者)

 かねて新劇ファンは高齢化が加速しており、いまやほとんどの劇団が観客動員に苦労していると伝えられる。都内でも劇場の淘汰が進み、平成18年には劇団昴(すばる)が保有していた文京区の三百人劇場が、平成25年には前進座がオーナーの、武蔵野市にあった前進座劇場が相次いで閉館している。

「閉館後の劇場の処遇は未定」(同)という。舞台芸術の灯がまたひとつ――。

週刊新潮 2023年6月29日号掲載

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