猿之助事件のカギを握る母と子の愛憎劇 「未成年強制性交」の捜査はどうなる?
歌舞伎界でも段四郎の“自殺”を疑問視する声
実際、6月27日の時点で警視庁が請求したのは母親に対する容疑の逮捕状のみ。
元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、
「段四郎さんに対する令状を同日に請求しなかったところを見ると、別の容疑で立件したい意図があったのは間違いないと思います。事件から1カ月以上がたっているため、逮捕を急ぐ必要もありませんから、ハナから同じ『自殺ほう助』のつもりなら段四郎さんの自殺ほう助が固まるのを待ってもよかったはず。立件しやすい母親への自殺ほう助で身柄をとり、じっくり事情聴取をした上で、父親に対する殺人容疑を固めようとしたと考えるのが自然です」
段四郎が死んでしまった今、「段四郎に死ぬ意思がなかったこと」を立証するのは困難にも思えるが、
「例えば段四郎さんへの向精神薬の飲ませ方もポイントです。錠剤を細かく砕いたり水に溶かして飲ませたりしていれば、段四郎さんの同意を得ずに薬剤を飲ませていた可能性も出てきます。それから猿之助さんはビニール袋だけでなく向精神薬の包装紙なども処分してしまったようですが、こういう点も猿之助さんには不利に働く」(同)
先の社会部記者も、
「当然、警視庁は段四郎の主治医などにも事情を聴いているはずです。仮に段四郎が言葉だけの同意をしていても、意味を理解できるだけの認知機能が維持されていなければ、自殺の意思や同意が認められないこともありますから」
もともと歌舞伎界でも段四郎の“自殺”には首をかしげる向きが多かった。演劇評論家の上村以和於氏も、
「歌舞伎界では舞台に出ず穴を空けるのが最大のタブー。段四郎さんも“親の葬式よりも舞台”を地でいくような真面目な方でしたから、息子の舞台の公演中に一家心中するなんて、今でも信じられません」
対照的な夫婦
とまれ、捜査当局が殺人の立証を見送れば、猿之助が問われるのは自殺ほう助のみとなる公算が大きい。
若狭氏によれば、
「両親二人に対する自殺ほう助でも執行猶予が付く可能性が高い。一方、父親に対する殺人が認められれば、懲役5年程度の実刑判決もあり得ます。ただ、その場合でも、猿之助さんには『殺人を主導したのは母親で、自分は手助けしただけ』と裁判で主張して、減刑や執行猶予を狙いにいく道もなくはない」
まだまだ真相解明にはほど遠い今回の事件。猿之助の罪名が自殺ほう助で落ち着いたとしても、新たな疑問が首をもたげてくる。自殺、すなわち心中の動機である。
果たして女性誌に息子のスキャンダルが報じられた程度で、一家心中を決意するまでに至るだろうか。
この点について、澤瀉屋の関係者は、
「あの家は、両親とも間違いなく、一人息子の猿之助さんを溺愛していました。お母さんは『亀治郎』を名乗っていた猿之助さんのことをいつまでたっても“亀ちゃん、亀ちゃん”と呼んでいましたしね。ただ、お母さんは周りに対して少しキツいところもあって、いつも皮肉めいたものの見方をされていたのが印象的です。京都の友禅図案家の家に生まれたという事情もあり、プライドが高かったのかもしれません。一方、お父さんは真面目だけど周りに影響されやすい人。夫婦は対照的な性格に見えました」
目に入れても痛くない最愛の一人息子の窮地。猿之助に孫を望めないことには複雑な思いもあったろうが、澤瀉屋の看板に人一倍の思い入れがあったあの母親なら、家族会議で“心中”を切り出すこともあり得ない話ではないというのだ。
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