「ミュージック・ライフ」元編集長が証言する“洋楽黄金時代” 日本で成功したクイーンとボン・ジョヴィ マドンナとマイケル・ジャクソンの出現で「ロックの時代は終わる」

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編集長を退く日

 既述の通り、編集者としての東郷さんを支えていたのは「私がいいと思ったものは、読者もいいと思うはず。私が胸キュンになった人は、読者の女の子もきっと胸キュンになる」という自信だった。だが、

「80年代の終わりになって、LAメタルブームが起こるんですね。ラット、ポイズン、モトリー・クルー……。全然、カッコいいと思えないんです。音楽的関心もなし。例外はガンズ・アンド・ローゼズ。LAメタルでなくブルースロックというのかな。ボーカルのアクセル・ローズもインタビューしたけど、実にいい人物で。でも、LAメタルにはどうしても心が動かなかったんです。ところが、編集部の女の子たちを見ているとワーキャー言ってる。今の子はこういうのがいいのか、こらアカンな、と」

 編集者として「好きこそものの上手なれ」がモットーだった東郷さん。自分が興味を持てないもの、関心がないものに、仕事で何時間もかけるのはもったいない、そう思うようになったという。

「それで90年6月号を持って編集長を辞め、会社も退職してフリーになったんです。今はミュージシャンも自身のTwitterやInstagram、ブログで色々なことを発信していますよね。昔、雑誌が知りたかったこと、紹介したかったことを全部、彼らがやっている。その中で雑誌は何を書くのか、難しい時代だと思います。それと、昔は音楽や映画とか娯楽は限られていましたが、現代は違います。娯楽としての音楽の順位は下がっています。ロックに限定すれば、もっとそうでしょう」

「でもね……」と東郷さんは目を輝かせる。

「いい曲はいつまでも残るの。本と同じです。レコードがCDに変わっても、いい作品はずっと残る。『ミュージック・ライフ大全』に懐かしさを求めて手に取ってくださる読者も、あの頃に聴いていいなぁと思った曲は、今聴いてもいい曲なんですよね。日本における洋楽の黄金期である70年代後半から80年代に青春時代を送った人には、本当にいい時代だったと思います。その中で、私は雑誌を作る側で、その時代を伴走できて幸せでした。ただ、もう一回やれと言われても無理ですけど」

忘れられないスターたち

 すでに何人かの大物ミュージシャンとの思い出を語ってもらったが、最後にどうしても聞いておきたい人を何人か。まずはクイーンのベース、ジョン・ディーコン。映画『ボヘミアン・ラプソディ』でクイーンがリバイバルブームになっても、一切、表舞台に姿を見せていない。

「ジョンはね、私たちが思う以上にフレディのことが好きで、尊敬もしていてね。メンバーの中で一番普通に“世間話”ができる人でしたね。最後に会ったのは1992年4月、ロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われたフレディ追悼コンサートでした。それ以来、まったく表には出てこないですね。前にロジャー・テイラーとブライアン・メイにインタビューしたとき『ジョンはどうしているの? 日本のファンが寂しがっているわ』と訊くと、『伝えておくよ。でも彼は、音楽界には戻らないよ』と言ってましたね」

 記者の個人的思い入れだが、ディープ・パープルやレインボーで超絶ギターテクを見せてくれたリッチー・ブラックモアはどうだろう?

「リッチー? 嫌い!」

――え! どうしてですか?

「何であんなに意地悪なんだろう。とにかく覚えているのは、インタビューの交渉も大変だったんだけど、ギターについての質問することにしたんです。それでギターに詳しいインタビュアーをつけて、私が横で一緒に話を聞いたんです。そうしたら、新しいギターが云々という話になって、それはどこのメーカーですか?って聞いたんです」

「エレファントだよ」

 リッチーは答えた。はて、そんなメーカーあったっけ? ギターに詳しいインタビュアーも首をかしげる。仕方なく東郷さんが、

「すみません、それは新しいメーカーですか? ここにいる全員が聞いたことがない社名なんですけど」

 リッチーはニヤリと笑ってこう言った。

「当たり前だよ。そんな会社ないもん。君たちが本当にわかっているかどうか試したんだ」

 リッチーのバンド、レインボーのドラマーで「ミュージック・ライフ」では何度も単独インタビューに登場したコージー・パウエルは、

「あの人は本当にいい人。常識をわきまえている。男らしくて日本語で言うと竹を割ったような性格です。意地の悪いリッチーとは正反対。だからあの二人がうまくいくはずがないのよね。でも、リッチーとコージーがいた頃のレインボーが最高なんですけど、なかなかうまくはいかないんですよね」

「ミュージック・ライフ大全」には、東郷さん以外の歴代編集長のインタビューをはじめ、洋楽スターたちの豊富なエピソードや貴重な記録がびっしり詰まっている。ただし、東郷さんには一つだけ気になることがあるという。

「手書きのバイオグラフィーというのをしばらくやっていたんですよ。こちらの質問にミュージシャンが手書きで答えて、そのまま掲載するというコーナーです。かなり前にやっていたのだけど、“あなたの血液型は?”という問いに“赤くて熱い”と書いてくる面倒くさい人がいたり、“貴方の初恋は”なんて男の人だと聞かないことを聞いたり。女の子目線の質問が面白いんですよ。私が記憶しているのは、ドアーズのジム・モリソンが“Rock is Dead(ロックは死んだ)”と書いたんです。その頃、ジム・モリソンにハマっていたので、キャーッとなったのを覚えていますよ。この現物がどこかにないかなと思って」

 この直筆バイオグラフィーの一部やアンケートも、「ミュージック・ライフ大全」には掲載されている。こんな字を書くんだ、という新たな発見があるから面白い。

デイリー新潮編集部

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