ノリボケ漫才・ハライチの現在地 岩井勇気の「テレビの笑い30点理論」で迎えた大きな転機

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「テレビの笑い30点理論」で大反響を巻き起こした岩井

 だが、そんな岩井にとって転機となったのが、テレビ東京の「ゴッドタン」で「腐り芸人」として紹介されたことだった。彼は平成ノブシコブシの徳井健太、インパルスの板倉俊之と並んで、腐っている芸人の代表として紹介された。

 いずれもコンビの中では相方の人気や知名度が高いため、「じゃない方芸人」と呼ばれることもあった。しかし、彼らが腐っているのは、単に相方の方が自分よりも売れているから嫉妬している、といった単純なものではない。

 岩井は、ネタ作りを担当している自分は「ゼロから1を作っている」と胸を張る。一方、相方の澤部佑のことは「1を増やすのが得意なだけで、ゼロから1を作れない」とバッサリ斬り捨てている。しかし、現実は非情である。テレビでは岩井よりも澤部の方が重宝され、数多くのバラエティ番組から声がかかり、CMにまで出演している。

 テレビでは、自分が思う「100点の笑い」は求められていない。「30点の笑い」が必要とされている。そして、その30点を100点だと思い込める芸人が売れるのだ、と岩井は主張した。岩井が提唱した「テレビの笑い30点理論」は、番組を見たお笑いファンの間でも大きな反響を巻き起こした。

 これをきっかけに、岩井の個性が徐々に評価されるようになり、コンビとしての仕事も少しずつ増えていった。そして、2023年1月にはついに「ぽかぽか」も始まった。

 一時期は開いていたコンビ格差もなくなり、ハライチがコンビとして本当の意味で輝きだすのはここからだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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