「京大の人と喋ってみたかったから」 作家・佐川恭一が語る就活で出会った「和製リア・ディゾン」との甘酸っぱい思い出

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就活で出会った「和製リア・ディゾン」

 2012年に『終わりなき不在』でデビューし、近著『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』も話題の作家、佐川恭一さん。屈指の名門、京都大学で学生時代を過ごしていた頃、大阪の街中で、“和製リア・ディゾン”と出会った彼は……。

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 私は京都大学という非常に優秀な人間と粗大ゴミが集まる大学にいたのだが、残念ながら粗大ゴミとして4年間を過ごした。就活もやる気がなかったのだが、いざ本格的に始まると、周りのムードや親の圧力的に何もしないでいることはかなり難しかった。私の志望業界では、正式な選考の解禁前に社員と会って話すリクルーター面談が横行していて、よく滋賀の実家から大阪のビジネス街に出かけていた。

 その頃、とある企業の集団面談でメチャカワ女子と一緒になった。若い方はご存知ないかもしれないが、当時「グラビア界の黒船」と呼ばれ写真集が飛ぶように売れていたリア・ディゾンというモデルがいた。その子はリア・ディゾンを和風にしてかわいらしくしたような感じで、私を非常に緊張させた。そのせいか私は社員とあまりうまく喋れず、後の就活に大きな不安を覚えながら面談を終えることになった。

「いや、ちょっと京大の人と喋ってみたかったから」

 その帰り道、私が淀屋橋からJR大阪駅に向かって歩いていると、「佐川くん!」と後ろから呼ばれた。振り返ると、なんとそこには和製リア・ディゾンがいたのだ。私は驚きを隠しつつ「あ、ああ、おつかれー」みたいなことを言った。その時、私は美女が話しかけてくれたにもかかわらず、全く喜んでいなかった。美女と二人になったところで会話を盛り上げることもできず、気まずい時間が流れるだけだと思っていたからだ。しかし、彼女は私との会話をうまくリードしてくれ、私の非常に狭い興味分野(ほぼ文学とエヴァ)の話も引き出し、楽しそうに笑ってくれた。私はゆっくり歩きながら、ほとんど恋に落ちていた。

 そうして大阪駅に着くと、彼女は「ほなねー、私もっかい向こう戻るから」と言った。よく聞いてみると、まだ淀屋橋の近くで面談があるのだという。私が「えっ、ほななんでこっち来たん?」と聞くと、彼女は「いや、ちょっと京大の人と喋ってみたかったから笑」と言った。妄想だと思われるかもしれないが、これは実話である。後にも先にも、異性に対して「京都大学」が効果を持ったと感じたのは、この一度だけだった。私はさすがに、連絡先を聞かなければならないと思った。会話も楽しく続いたし、気も合いそうだし、もし彼女と付き合えたら幸せだろう……。

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