閉経後も女性ホルモンを代替、前立腺がん予防など! 明らかになった大豆の「奇跡の健康効果」

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

豊かな大豆食文化

 以上、大豆のすごさを健康増進の観点から三つ紹介しましたが、冒頭で申し上げた幸運とは、このスーパー食材とも言うべき大豆を、日本人ほど多く食べている国民がいないことを指しています。

 事実、1人1日あたりの大豆消費量を比較してみると、同じ東アジア文化圏の中国が37キロカロリー、韓国が60キロカロリーであるのに対し、日本は96キロカロリーと断トツの1位です。ちなみにカナダは6キロカロリーで、米国はなんと0キロカロリー。そもそも欧米などでは、大豆は家畜に与える餌として、あるいは大豆油用の資源として扱われてきたので、人間が食べるものという認識が希薄なのです。

 従って、彼らは「大豆の調理の仕方・食べ方」をほとんど知らない。それに対して日本人は、みそや醤油といった調味料として生かし、大豆タンパク質を加熱変成させて湯葉にして、さらには発酵させて納豆にするといったように、豊かな「大豆食文化」を持っています。

 ちなみに2020年、国立がん研究センターなどの研究チームが納豆に関するある発表をしています。45~74歳が対象の、約9万人もの被験者が関わった15年におよぶ研究によって、納豆を1日半パック(26グラム)以上食べるグループは、全く食べないグループと比較すると、循環器疾患で死亡するリスクが20%程度低いことが分かったのです。毎日、夕食時に納豆1パックを食べている私を含め、これは日本人にとって朗報といえるでしょう。

「タンパク質食材」の奪い合い

 昔の日本人は、三つの「大豆のすごさ」を知っていたわけではなく、あくまで食文化のひとつとして大豆を楽しんできた。ところが、それは生活習慣病予防という現代的な健康の観点からも大いに意義のあるものだった。これが、私が言う「幸運」の意味するところです。

 しかし今後、この幸運にして誇るべき食文化が失われかねない危険性があります。それは「タンパク質危機」が迫っているからです。

 現在、世界の人口は80億人に達し、2058年には100億人を超えると予測されています。それは同時に、これだけの人口を十分に養う食料を生産するのが困難になるであろうことを意味します。とりわけ懸念されているのがタンパク質不足です。

 人間の体の60%は水分ですが、残りの40%のうちの約半分はタンパク質であり、食事からタンパク質を摂取しなければ人間は生きていけません。しかし、100億の人口を支えるタンパク質の食材供給は難しく、世界中で「タンパク質食材」の奪い合いが起きる可能性があります。

 まず、家畜には餌、つまり大量の穀物を与えて育てるわけですから、こんなに効率が悪い“ぜいたく”は人口爆発の時代に許されなくなることが考えられます。水資源の面から考えても、例えば小麦を500グラム収穫するのには650リットルの水消費で済むのに対して、牛を育て、私たちの食卓に300グラムのステーキが届けられるまでには4650リットルもの水が必要となります。そのため、今後は全世界的に動物性タンパク質から植物性タンパク質へのシフトが避けられなくなるのではないかと考えられます。

 すると当然、これまでは「家畜用」としてしか考えていなかった国が、タンパク質の質量ともに優れた大豆に「食用」として目をつけるであろうことが推測されます。

次ページ:75%が輸入

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[5/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。