閉経後も女性ホルモンを代替、前立腺がん予防など! 明らかになった大豆の「奇跡の健康効果」

ドクター新潮 ライフ

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βコングリシニン

 そして大豆のすごさの3点目は「βコングリシニン」です。

 従来、大豆タンパク質には代謝改善機能や抗肥満効果があるとの研究が複数報告され、そうした機能や効果をもたらすのがβコングリシニンであることが指摘されてきました。

 先ほど説明したように、乾燥大豆の33%はタンパク質ですが、そのタンパク質の中の18~19%を占めているのがβコングリシニンです。これが人間にさまざまな健康効果を発揮することは分かっていたものの、βコングリシニンがどのような分子機構を介してそうした効果をもたらすのかは判然としていませんでした。

 そこで、私の研究室でマウス実験を行った結果判明したのが「FGF21」という遺伝子の働きです。βコングリシニンを摂取すると、食後に肝臓からのFGF21の分泌量が顕著に上昇することが分かったのです。

 FGF21は絶食・空腹時に血中濃度が上昇し、それまでに体内に蓄積していた脂質を分解してエネルギーを放出するように促します。何も食べていないと体がエネルギー不足になり、活動に支障をきたすので、それを防ぐ役割を果たしているといえるでしょう。逆に、食事を取るとFGF21の血中濃度は急激に下がり、私たちの体は「もう飢餓状態を脱したから、自分の体(脂質)を分解してまでエネルギーを放出しなくても大丈夫」という状態になります。

「食べているのに食べていない」

 ところが驚くべきことに、私たちの実験では、βコングリシニンを多く含んだ高脂肪の餌をマウスに与えたところ、絶食時よりもFGF21の血中濃度が上がりました。つまり、高脂肪の食事をしているのに、FGF21が分泌されることによってあたかも何も食べていないかのような錯覚が起き、マウスの体内で脂質分解が促され続けることが分かったのです。

 通常、食事をすればFGF21の分泌は収まって脂質分解は促進されず「太る」方向に作用するはずなのに、どういうわけかβコングリシニンは、食事を摂取しているにもかかわらずFGF21を分泌させ続け、飢餓状態が継続しているかのようなメッセージを体に送り、脂質分解を促して「太らない」ように働く。こんなに好都合なことはありません。いわば、βコングリシニンは「食べているのに食べていない」かのごとき状況を生み出していたわけです。

 実際、ヒト試験においても、A群にはβコングリシニンを含んだキャンディーを、B群には乳タンパク質であるカゼインを含んだキャンディーを、それぞれ一定期間継続的に摂取してもらった後にCTスキャンで内臓脂肪の面積を検証したところ、B群は試験開始後大きくなっていたのに対し、A群では小さくなったと報告されています。

 このことからも、全国に1千万~2千万人いるとされ、自覚がないままに進行する非アルコール性脂肪肝(NAFL)、通称「隠れ脂肪肝」に対して、大豆に多く含まれるタンパク質のβコングリシニンが効果を発揮することが期待されます。

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