「戦争の長期化に拍車」「エリートの離反と愛国勢力の反発」 ワグネル反乱は何を示したのか
政権発足後、内政における最大の危機
もともとプリゴジン氏は、プーチン大統領の出身地であるサンクトペテルブルクで高級レストランを経営し、政権幹部の知遇を得た。2014年のワグネル創設後はプーチン氏の片腕として、残忍な“汚れ仕事”を引き受ける代わりに対価を得る蜜月関係を築く。ところが今回のウクライナ戦争でワグネルの存在感が増したことで、両者には埋め難い亀裂が生じてしまったのだ。
「今回は二つの意味で、プーチン政権発足後、内政における最大の危機だったと言っていいでしょう」
そう話すのは、ロシアの政治や外交、安全保障に詳しい防衛省防衛研究所・研究幹事の兵頭慎治氏だ。
「一つ目は、これまでの反政府勢力などではなく、プーチン政権の中枢にいた親しい一派が、初めて反旗を翻したという事実です。しかも武装してモスクワに行こうとしたわけですから、国内外に大きな衝撃が走ったといえます。そして二つ目は、あれだけプーチンが演説では厳しい口調で“裏切者”“罰してやる”などと言っておきながら、事実上、国外追放の形で不問に付したことです」
政権内の亀裂
中途半端な後始末が、後々になって災いを招く可能性があるというのだ。
「このことは、プーチン大統領の力だけでは事態に対応できなかったことを示しており、想像以上に統治能力が低下しているのではないかと、国内外に印象付ける結果になりました」
つまりは、こう言えるという。
「そもそも盤石な政治力で統治が行われていれば今回のような反乱は起きません。仮に起きたとしても、首謀者は直ちに拘束されるか処罰される。それが不問に付されるとあっては、プーチンの求心力低下は避けられません。ブリンケン米国務長官も、政権内に亀裂が入り始めていて、この動きは続くと指摘しており、深刻な事態に見えます」(同)
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