藤井七冠が「八冠」へ一歩前進 勝負において“勢い”が重要な要素であることを感じさせた一番

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「勢い」が止まらない藤井

 長野県安曇野市在住の種田山頭火研究家で将棋愛好家の古川富章氏(55)は、「羽生さん、大長考があったかと思えば、その後はノータイムの『7七角成』の勝負手に続き、再度ノータイムでの『3八銀打ち』で仕掛け、よく詰め寄りましたが、藤井さんが正確な受けで対応、上手くしのぎ、あと一歩で及びませんでしたね。羽生さんも決して悪手があったわけではなく、徐々に形勢不利になっていって、気づいたら負けてしまっていたような印象ですね」と話す。

 さらに「藤井さんの終盤での正確な読み、特に自玉が詰むか詰まないか、相手の攻撃を読み切って勝つ力を見せつけた感があります。藤井七冠は『詰将棋の達人』ですが、裏を返せば、相手からの攻め手をかわす『しのぎの達人』でもあります。本局は藤井七冠の強さの秘密のうち、この受けのうまさを特に見せつけられた一局でした」と感服する。

 振り駒では藤井が多少有利な先手となった。「羽生さんが序盤で端歩を突かなかったのは、用意していた後手番作戦だったのでしょうか」と古川氏。藤井の「1六歩」に羽生が「1四歩」と応じず、藤井に「1五」まで歩を進められて羽生玉の遁走筋が少なくなった部分だ。

 古川氏は「今の藤井さんには、『運』『若さ』『強さ』に加えて、『勢い』がある。特に『勢い』は勝負において非常に重要な要素です。必勝形である中央突破形と、必敗形である完全包囲形は、ある瞬間に全く同形となりますが、形勢を左右するのは『勢い』。同じ状況でも自らに『勢い』があれば中央突破の勝ち形と言え、自らに『勢い』がなければ完全包囲の負け形となってしまう。ピストルの弾を手で投げても厚い板を貫通することはありませんが、弾丸に爆発力があればこそ、同じ弾でも厚い板を貫通するのに似ていますか」と比喩する。

藤井2000円弱、羽生3000円強ナリ

 この一局はタイトル戦ではないので、主催社や協賛会社などから豪華な食事やおやつが出るわけではない。食事は基本自腹である。ABEMAの中継では、対局室に注文を取りに来た女性に渡されたメニューから昼食や夕食を選び、自ら財布から金を出して払う様子まで映されていて面白い。

 昼食は藤井がキーマカレー(1000円)、羽生がちらし寿司(1780円)。夕食は藤井が冷やしタンタン麺(950円)、羽生がチキンカツ定食(1400円)。羽生や藤井のような棋士でも、いつも豪華な食事を口にしているわけではない。タイトル戦なら対局室に財布を持参しなくてもいいが、名人戦の順位戦など普段の対局では持っていなくてはいけないわけだ。

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