同じ監督の映画が半年間に3本公開の異例 「大名倒産」の前田哲監督が語る“映画監督というお仕事“
「大名倒産」でも…作品に共通する“過酷な現実”というモチーフ
そんな石塚プロデューサーとの最新作「大名倒産」は、浅田次郎の同名小説を原作にした時代物。“破綻”寸前の越後丹生山藩に、若殿として迎えられた鮭役人の息子・小四郎(神木隆之介)。藩の計画倒産を押し付けられた小四郎が、張り巡らされた権謀術数を人々の協力を得て解決し、乗り越えていく痛快な奮闘記だ。
「父が歴史小説、時代小説が好きで、時代劇を撮るのは僕の夢でした。『大名倒産』はタイトルがキャッチーだし、コメディ要素もある。原作を読むと次世代に負担を押し付けようとしている現代社会にも通じる作品とも思えました」
石塚プロデューサーの下、脚本家の丑尾健太郎、稲葉一広とともに脚本開発に入った。
「僕がやりたかったのは、リーダー論と幸福論です。幸せの価値を自分で決められる世界であってほしいし、その幸せを誰もが感じられる社会へと変革させることこそリーダーの責務だと思っているので」
リーダー論を紡ぐのは小四郎だ。
「小四郎には、神木さんのパブリックイメージに近いものを感じました。『自分の弱さをわかった人間は、逆に強くなれる』それが小四郎です。弱さを認めた人にこそ、人々は警戒心を解き、心を開く。みんなが小四郎に協力するのはそういうわけで、これはもう神木さんしかいないとプロデューサーとも一致しました」
原作に登場しないさよ(杉咲花)というキャラクターは、「女性を時代物の添え物にしない、ジェンダーギャップの打破を」という思いで設定した。さよは小四郎をアシストしつつ、同じように活躍する。
コメディにシリアスなテーマを盛り込むのがうまい前田監督には、作品に共通するモチーフがある。それは意外にも“残酷な現実”だ。
「大名倒産」と「バナナ」はもちろん、タイトル通りの夫婦が登場する「老後の資金がありません!」、4人も親が変わっても飄々と生きる主人公を描いた「そして、バトンは渡された」など、このほかの作品にも“残酷な現実”は共通している。
「違うのは作品のテイストだけで、どれも残酷で辛辣な現実を生きるさまを描いています。生きづらい社会をどう生きればいいのか、メンタルに負荷をかけずに生きるために何が必要なのか。『ロストケア』では、家族を守るが故の悲劇を。『水は海に向かって流れる』では、寄り添えるような映画を。『大名倒産』では、未来に向けて、社会を明るくする一端を担えるような映画をと、本気で思っています」