過去には逸失利益“ゼロ”も…事故死した聴覚障害「11歳女児」に減額判決 愛娘の自立に向けて奔走した遺族の胸中

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 聴覚障害を持つ井出安優香さん(当時11)が、大阪にある支援学校の前で交通事故により亡くなったのは2018年2月のことだった。一審の判決では、“逸失利益85%”とされ、加害者に約3700万円の支払いが命じられた。しかし、遺族である父親の井出努さんは、判決が障害者差別に値すると控訴。その胸の内を聞いた。(前後編のうち「後編」)【中西美穂/ノンフィクションライター】

「私たちは、娘の11年間を裁判で訴えてきたのです。家族が支え、娘が努力したことで、あそこまで成長しました。障害を持つ子供の親なら誰でもそうですが、娘がちゃんと自立できるように、将来のこと見据えて、支援学校に通わせていたんです。その場所で事故に遭ってしまって……」

 裁判所の判決では、被害児童には、将来様々な就労可能性があったとした一方、聴力障害が労働能力を制限し得る事実であること自体事態は否定できないとされ、逸失利益は85%と結論づけられたのだ。

「障害者差別法ができて、ここまで社会が変わってきているのに、なぜ判決は、障害者差別にも値する結果を出すのか。障害は社会で背負っていくものではないでしょうか。世の中は変化しつつあります。子どもはまだ11歳で、将来どうなりたいのか、どんな仕事に就くかもわからない年頃なんですよ。だからこそ、障害のある娘を通し、障害者がどんな差別的な環境に置かれているか知ってもらうために戦っています。こういうことは差別だって知ってもらわないといけない。泣き寝入りじゃなく、訴えていかないといけないのです」

過去には逸失利益が“ゼロ”のケースも

 障害児・者の“逸失利益”に関しては、これまで多くの遺族達が辛い経験をしてきた。中には、逸失利益が“ゼロ”というケースもあった。

「安優香の事故が起きる前にも、全盲の女性が交通事故に遭い、高裁で逸失利益8割という判決がでた事例がありました。そのときも加害者側は6割を主張していました。時代とともに、その割合は上がっていますが、1割でも減額されたらそれは障害者差別ではないでしょうか」
 
 現在、日本では、障害者基本法や障害者差別解消法によって、雇用や就労を巡って障害を理由とする不当な差別的扱いが禁止され、障害者に対する社会的障壁を除去するために必要かつ合理的配慮がされなければいけないのだ。

「そういう問題に向かって戦ってこられたかたもいるわけで。そもそも人の命を奪った側が、被害者の遺族に対して、お金を渋るっていうのはどういうことや、と。それはやっぱりおかしいと思うんです」

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