小田急線刺傷事件裁判 対馬被告が語った「パン工場夜勤」「コンビニバイト」の困苦 「周りは何不自由なく暮らしているのに僕だけが不幸」
当初のターゲットは「警官」と「店員」だった
そして、迎えた事件当日の8月6日。朝からコンビニで万引きを繰り返した対馬被告は、昼頃、新宿区内の食料品店でベーコンとオリーブ塩漬けを万引きしようとしたところを店員に捕まり、警察を呼ばれた。新宿警察署で取り調べを受け、パトカーに乗せられて帰宅後、ビールを飲みながら犯行を思い立ったという。
この時の苛立ちを「レベル0から100で表すなら?」と問われた対馬被告は、「100です」と答えた。
当初、狙おうと考えたのは警察だった。恨みを持った理由として、店から通報を受けて駆けつけた警察官に「お前、カネ持ってんじゃねーか(註・財布に9000円入っていた)、とチンピラみたいな口調で言われた」こと、さらに警察署から家までパトカーで送られる最中、寝てしまったら、「テメー、反省してんのか」と怒鳴られたことなどを挙げた。
次に思い浮かんだのは食料品店の店員。逆恨みした理由は、
「全店出禁と言われ、タブレット端末でカシャカシャ10枚くらい写真を撮られた。すごい屈辱を感じた」
だが、食料品店の閉店時間は午後8時で、この時すでに午後7時を回っていた。ならば、世の中に対する恨みを晴らそうと電車を襲う計画に切り替えたのだ。
気分を上げるために、服用していた抗てんかん剤「リボトリール」を3錠飲み、部屋にあった包丁やサラダ油、「チャッカマン」、ハサミ、逃走時のための着替えなどをカバンに入れて家を出た。駅前のコンビニで預金額の全額にあたる4万円もおろしたという。
ターゲット像とは全然違っていた
最寄駅の読売ランド前駅から登戸駅まで各駅停車で行き、新宿行き快速急行に乗り換え、7号車に乗った時の状況についてはこう振り返った。
「サッと周りを見回して、刺したい人がいるか探しましたが、あんまり時間をかけられないと思ったので、ピンクの人をターゲットにしました」
――目についた?
「すぐそこにいて、ピンクの服だったし目立っていた」
――ターゲット像と合致したか?
「正直、全然違いました」
この時、迷いが生じたとも語った。
「リアルな人間を目の前にして、これは僕には無理かもしれない、これをやってしまったらこれまでの生活は失われるし、家族の幸せを壊してしまうなと思った」
だが、最後は迷いを断ち切った。
「家を出る前に強い覚悟を持って出てきたので、成し遂げないといけないと思い直した。今までの生活はそんなに大事なものだったかなと考えました。せめぎ合いみたいなものがあり、それを振り切るようにAさんを刺しに向かいました」
捕まった後、警察で取り調べを受けていた時の心境を問われ、こう語った。
「自分の話したいことを聞いてもらえたのはすごく嬉しかった。しばらく誰とも関わりがなかったので…。仕事でたまに話す程度でした」
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