一般社会と芸能界の境界で…謎の空振り芸人・青木さやかの正体

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

芸能界と一般社会の境界に立つ“馴染めない”青木

 青木の第二の転機となったのは、「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)のドッキリ企画である。ここで、大がかりなドッキリに何度もはめられて、その度に新鮮なリアクションをとる青木の姿が評価された。ドッキリは回を増すごとにエスカレートして、青木は付き合っている彼氏をテレビで公開されたり、セクシー写真集を出版されたりして、何度も大きな注目を浴びた。この番組で、青木はいじられ役として新たな魅力を引き出された。

 また、この時期から少しずつ、青木のキャラにも変化が現れ始めた。テレビに出始めた頃は、無理に強気に振る舞う彼女がどこか空回りしているように見える瞬間も多かった。だが、青木は次第に、そんな自分の姿を素直に受け止めるようになってきた。不安や劣等感を下手に包み隠さず、さらけ出していくようになったのだ。

「自分には芸人としての覚悟も才能も足りないのかもしれない」などと思っていることを認めて、それでも必死でがんばる姿を売り物にしようと試みた。いわば青木は、芸能界と一般社会の境界に立って、どちらにも馴染めないという感覚そのものを切り売りしてここまでやってきたタイプのタレントなのである。

「自分はこの仕事に向いていないのではないか?」
「女としての幸せって何なのか?」

 恐らく青木は、日々このような不安を抱えながら生きている。だが、こういったことは、現代を生きる成人女性ならば、多かれ少なかれ誰でも持っているような素朴な問題意識なのだ。

 青木は、いつまでも答えを出せないまま、不器用にもがいている。そして、そんな彼女の姿が、テレビの前で同じような意識を抱えている人間の心に刺さる。最近では主に執筆業で自身の卒直な考えを発信している。

 安直な「成功体験」ばかりが語られがちなショービジネスの世界の中で、それに対する居心地の悪さをどこまでも隠さない青木は異色の存在だ。謎の空回り芸人・青木さやかの正体は、世知辛い浮き世をさすらう成人女性たちにつきまとう不安の化身なのである。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。