奈良地裁に山上被告の減刑嘆願署名を送った女性の告白 母親は「生長の家」の信者 性自認で葛藤した人生 「いきなり死刑が執行されれば彼は無念に違いない」

国内 社会

  • ブックマーク

謝罪の気持ち

 ネット上では署名活動に対する反対の声も大きかった。Twitterを検索しても、《彼の生い立ちは犯した罪の何ら免罪符にはならない》、《減刑嘆願などに署名している時点で、テロリズムを肯定する危険思想の持ち主》、《ほぼ私情みたいなもんで他人を殺しといて減刑されたら私刑がまかり通る》──など、多くの批判が表示される。

「反対意見が投稿されることは最初から想定していましたし、殺人が許されない罪であることはもちろん分かっています。『人殺しの肩を持つのか』との批判に、反論することは難しいと自分でも思います。しかし、この事件が起きなかったら、やはり統一教会の問題がこれほど広範に議論されることはなかったはずです。いわゆる“暗黙の了解”ではないけれど、それまでは自民党と統一教会の蜜月を問題視する報道が少なかったのは事実でしょう。署名活動を通じて、もう一度、多くの方々に自民党と様々な宗教団体の関係について考え直してほしいという願いもありました。そして活動を始めると、私と同じような考えを持ってくれている人も少なくないことが分かりました」

 銃撃事件の第1回公判前整理手続きが中止になったことは、「本当にお詫びするしかない」と考えているという。

「山上被告や弁護団、裁判官の方々だけでなく、奈良地裁の職員の皆さんや別の用事で地裁を訪れていた方々にも謝罪したいです。地裁に用事があるという時点で、きっと大変な事態を抱えておられる方が少なくないと思います。平日に都合をつけるのも簡単ではありません。署名を送付する前に奈良地裁に電話をかけておけば、こんなことにはならなかったはずです。それを思いつかなかったのは、完全に私の落ち度です」

清瀬交番での事情聴取

 謝罪の気持ちを示した上で、斉藤さんは「それでも一言、弁明をさせてほしい」と言う。

「ヤマト運輸の宅急便で送付したのですが、送付状には『書類(署名)』と明記し、私の氏名と住所、電話番号は全て記入しました。金属探知機が反応したので仕方ないのかもしれませんが、まずは私に連絡してくれれば、あそこまで大騒ぎにならなかったのではないかという気持ちもあります」

 爆発物騒動の時、斉藤さんは私用で外出するところだった。地裁の状況をネットニュースで知ったのは午後3時ごろだったという。

「移動中に友達から『奈良地裁に電話したほうがいいんじゃない?』と提案され、そうだと思って訪問先で事情を説明して電話したんです。すると午後5時を過ぎていたので閉庁していたようで、奈良県警にかけ直して事情を説明しようとすると、『とにかくこっちの質問に答えろ』と厳しい口調で言われ、すぐ近くの警察署に行くことを求められました」

 ところが、訪問先からも自宅からも最寄りの東村山警察署は遠かった。そのため清瀬交番に向かうことに決まった。急いで移動していると、NHKが「爆発物ではない」と速報したことを知った。

「交番に到着すると、電話とは打って変わって、非常に物腰の柔らかい男性と女性の2人から質問されました。奈良県警ではなく、多分、警視庁の捜査員だったと思います。事情聴取はメモを取っただけで、調書を作成することはありませんでした。私の連絡先を聞く時も『こちらからお電話を差しあげることはまずないと思います』とも言われました。実際、今に至るまで奈良県警から電話はありません」

 署名についても捜査員から「奈良県警が証拠物として保管することはなく、すでに奈良地裁に渡しています」と教えてくれたという。

LGBT理解増進法

 現在の斉藤さんは女性として日常生活を送っており、性自認は「男女半々、ミックスジェンダーみたいな感じ」だという。「旧来型の女性イメージを前提としたコミュニケーションには強い違和感を今でも覚えるが、それを差し引いても女性として日常生活を送った方が楽だと思うことも少なくない」と語る。

 6月16日に国会で成立し、23日に施行されたLGBT理解増進法には納得ができないという。

「報道された通り、LGBT理解増進法は与野党を問わず保守的な議員から批判が集中し、改悪とも言うべき修正案で可決されました。幼い私に母親が繰り返し口にした『女性はこうあるべき』という発言は、一部の自民党議員の方々が主張する内容と重なり合う部分がかなりあります。私は“右翼的で家父長的な価値観を重視する団体は、依然として自民党を中心に政界工作を行っている”との懸念を持っています」

前へ 2 3 4 5 6 次へ

[6/6ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。