奈良地裁に山上被告の減刑嘆願署名を送った女性の告白 母親は「生長の家」の信者 性自認で葛藤した人生 「いきなり死刑が執行されれば彼は無念に違いない」
籠池泰典氏と生長の家
昨年7月8日、安倍晋三元首相に対する銃撃事件が発生した。当時、斉藤さんは在宅勤務中で、つけっぱなしにしていたテレビで速報を見た。最初、山上被告に特別の関心は持っていなかったが、統一教会の2世信者であることを知るようになって考えが変わった。
「親が極端な思想の持ち主で、その子供が苦労するという観点なら、私は山上被告に同情したと言っても許されるところはあります。宗教2世の人たちが集まるネット上のコミュニティがあるのですが、非常に共通点が多くてびっくりしたことがあります」
そして斉藤さんは、署名活動を開始しようと決心した。署名サイト「Change.org」で署名をしたことは何度もあったが、発起人になったのは初めてだった。
署名活動の趣旨として、斉藤さんはサイトやSNSなどで《いかなる理由でも殺人を肯定するものではありません》と断った上で、山上被告の過酷な生育歴などを鑑み、死刑に相当する罪状であったとしても温情で無期懲役などに減刑してほしいと訴え、賛同者に署名を求めた。
斉藤さんが「署名活動を開始しなければ」と強い想いに駆られた理由は次の2つだったという。
【1】山上被告がすぐ死刑にされるのではないかという不安
【2】裁判が行われても山上被告に弁明の機会が与えられないのではないかという不安
「最初に不安を感じたのは、テレビや新聞は当初、統一教会の名前を出すことすら躊躇していたからです。まるで政治的な強い圧力がかかっているかのようでした。メディアの自由な報道すら妨害されているとなると、山上容疑者は犯行動機など何も主張できないまま、すぐに死刑が執行されるかもしれないと心配で仕方なかったのです」
日本の司法制度を考えれば、すぐに死刑が執行されることはあり得ないはずだが……。
「私は安倍元首相個人を嫌悪したりしていませんが、例えば森友学園の問題があります。近畿財務局の男性が自殺した問題はいまだに真相は明らかになっていません。学園の理事長だった籠池泰典氏は、自身の父親も含め生長の家の信者であり、少なくとも安倍昭恵さんとは密接な関係があった。にもかかわらず、裁判は詐欺罪を巡るやり取りだけで終わってしまった。“闇”は残されたままという印象は強く、安倍政権を巡る様々な疑惑に関して日本の司法制度に不信を抱いている人は私だけではないと思います」
宗教2世も署名に協力
斉藤さんは「もし山上被告が裁判で弁明の機会が充分に与えられず、いきなり死刑が執行されるようなことになれば、きっと被告は無念に違いない」と考えた。
「署名に協力してくださった方の中には、『無罪でいいくらいだ』と主張していた人もいました。私はさすがにそこまでは考えていませんでした。もちろん減刑を求めて署名活動を開始しましたが、裁判で事件の真相が解明されてほしいという願いも込めました。裁判で山上被告が充分に意見を陳述する機会が与えられてほしい。仮に死刑が執行されるにしても、判決の確定から執行までは一定の期間が確保され、弁護士を通じて主張や説明が発表され、再審請求も行えるような状況になってほしいと考えています」
最終的には約1万3600人の署名が集まった。最も多いのは「山上被告の人生は、あまりに可愛そうだ」という同情の念から署名した人だという。
「宗教2世の方々も署名に協力してくれました。姉が統一教会の信者で、合同結婚で韓国に渡ったが、現地での結婚生活がどれほど酷いものだったのかを切々と訴える妹さんもいらっしゃいました。また、自民党右派への怒りから署名してくれた方々もいました。『日本を大切にすると言いながら統一教会と組み、日本人の資産が韓国に流れてしまったことを放置した』と強い怒りを投稿してくれました」
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