プリゴジン反乱 真の原因を作ったのは「ロシア軍のだらしなさ」 「太平洋戦争のドーリットル空襲を思い出す」

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君側の奸

 プリゴジン氏は“世直し”どころか、“軍首脳部との政治闘争”や“ワグネルを解散させようとする動きに反抗”するために反乱したとも言われている。つまり動機は、あくまでプーチン政権内での権力闘争だったのだ。

「プリゴジン氏は『俺たちはバフムートであれだけ血を流したのだ』という想いがあったのかもしれません。シリア内戦やクリミア半島のロシア併合でも、ワグネルは汚れ仕事を厭いませんでした。とはいえ『自分たちもロシア軍の中で然るべき地位につけろ』と要求したのなら、さすがに無理筋です。もしプリゴジン氏がロシア軍の幹部になれば、究極的には核戦略の一翼を担うことになります。ロシア軍だけでなくプーチン大統領にとっても呑める話ではないでしょう。大統領が絶対に反乱を鎮圧するという姿勢を見せた原因の一つだと考えられます」(同・軍事ジャーナリスト)

 冒頭で紹介したブリンケン国務長官の「ロシアに亀裂が入った」という指摘に同意する向きも多いだろう。少なからぬロシア国民がプリゴジン氏を“我々の味方”と応援し、クレムリンのエリート層を“プーチン大統領を誤らせる君側の奸”と批判していることが明るみになった。

ロシア国民の今後

「1936年、陸軍の青年将校が首相官邸などを占拠する二・二六事件が起きました。今回のワグネルの反乱との類似点を指摘する専門家もいますが、私は1942年のドーリットル空襲のほうが関連性は高いと考えています。太平洋戦争の開戦当初、連戦連勝で多くの日本人は沸きたっていました。ところが、米軍のドーリットル隊が初めて日本本土を空襲すると、一部とはいえ情報に敏感な日本人が戦局に疑いを持ちました」(同・軍事ジャーナリスト)

 ロシア軍はウクライナで連戦連勝どころか連戦連敗だ。とはいえ、多くのロシア人に戦局を判断する情報が与えられていないという点は、当時の日本人と変わらない。

「これまでロシア人にとってウクライナ侵攻は“他国の戦争”でした。徴兵された子供が戦死した家族は違うでしょうが、一般的な国民からすると物価高は感じても自国の屋台骨が揺らいでいるという感覚はなかったはずです。しかしワグネルの反乱で、モスクワ市は戒厳令の一歩手前の状況に陥りました。多くの国民が『何かとんでもないことが起きているらしい』と気づき始めたはずです。初めてウクライナ侵攻を真正面から見つめる機会を与えられたロシア人がどう動くのか、戦争反対の声を上げるのか、依然としてプーチン大統領に従うのか、重要な局面を迎えていると思います」(同・軍事ジャーナリスト)

註:ロシア空軍に多大損失か ワグネル反乱、事前準備の見方(日本経済新聞・電子版:6月25日)

デイリー新潮編集部

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