プリゴジン反乱 真の原因を作ったのは「ロシア軍のだらしなさ」 「太平洋戦争のドーリットル空襲を思い出す」

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戦車を“貸与”する異常性

 そもそもPMCは、要人や重要軍事施設の警護、軍事訓練の受託、兵站など、軍隊の下で様々なサービスを担うのが本来の役割だ。

 本格的な戦闘はあくまでも正規軍が担うため、PMCに戦車や対空ミサイルといった破壊力の高い兵器は必要ない。映画「ハート・ロッカー」で描かれたPMCの戦闘員は中国製の自動小銃を手にしている者もいたが、彼らの任務を考えればそれくらいの武装で充分なのだ。

「ワグネルの悪名は響き渡っており、特にアフリカでは利権を独占して荒稼ぎしてきました。ただし、いくら大儲けしていると言っても、ロシア製の戦車T−72は、中古でも数千万円はします。弾薬の補充、メンテナンスなどの手間も必要で、ワグネルが自分たちの資金で戦車や対空ミサイルを整備した可能性は低い。全てロシア軍が“貸与”したと見るべきでしょう」(同・軍事ジャーナリスト)

 なぜロシア軍はワグネルに破壊力の高い兵器を惜しげもなく与えたのか。ウクライナのバフムートでの激戦を考えれば、答えは簡単に分かる。

「ウクライナに侵攻して以来、ロシア軍は多大な損害を受けてきました。兵力を維持できず、正規の軍事作戦でも“ワグネル頼み”だったのです。ロシア軍はワグネルを“何でも言うことを聞く便利な連中”と考え、重火器や戦車を与えました。一般的なPMCなら、正規軍のヘリコプターや軍用機が撃墜できる兵器を持っているはずがありません。ところが、普通では考えられないことがワグネルには起きた。ワグネルの重武装が実現したからこそ、反乱を起こせたのです。つまり今回の騒動を引き起こした本当の原因は、カネのためなら何でもやる、ならず者集団のワグネルを重用したロシア軍のだらしなさにあると言えます」(同・軍事ジャーナリスト)

ロシア軍の権威

 24日、ワグネルはロストフ州を制圧。得意絶頂にあったプリゴジン氏が国防省の幹部と対話する動画が発表された。いや、対話というよりは恫喝と言うべきだろう。貫禄たっぷりに幹部をどやしつける姿は衝撃的であり、日本でも多くのメディアが報じた。

「捕虜の虐待や囚人兵に対する非人道的な扱いなど、ワグネルとプリゴジン氏の悪行を数え上げればきりがありません。擁護することは絶対に許されませんが、国防省の幹部は戦場から遠く離れた安全地帯に引っ込んでいたからか、全く弱々しい態度でした。一方のプリゴジン氏は──それがパフォーマンスだったとしても──最前線で兵士を督戦し、部下が戦死する様子も間近で目撃してきました。まさに猛将と言うべき面構えで、これだけで勝負あったということでしょう。ワグネルが解散しようがしまいが、反乱によってロシア軍の権威が地に墜ちたことは間違いありません。何より国民が、ロシア軍に強く失望したと思います」(同・軍事ジャーナリスト)

 情報は依然として錯綜し、専門家でさえ見解は割れている。しかし、少なくともプリゴジン氏が“世直し”のために立ち上がったわけではないことは確かなようだ。

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