「不倫は男の本能」という言い分はどこまで正しいのか ホリエモンは「一夫一妻制は古くさい」と……
直近では広末涼子が強い関心を集めているが、実のところ有名人の不倫という話題は、定期的に週刊誌などによって明るみに出て、話題になる。個々のケースで事情が異なるとはいえ、それに対する世論も、いくつかに分類されると言っていいだろう。代表的なのは以下の4パターンだろうか。
速報「娘はフェイク情報を信じて拒食症で死んだ」「同級生が違法薬物にハマり行方不明に」 豪「SNS禁止法」の深刻過ぎる背景
(1)道徳的に許せないことだ
(2)民法上の不法行為なのだから許せない
(3)自分の身近な人なら許せないが、他人だからどうでもいい(あるいは面白い)
(4)当事者の問題にすぎないので放っておけばいい
(1)(2)の人は、「罰」として自粛などに追い込まれるのもやむなし、という結論に至りやすい。一方で(3)(4)の人は、もう少し寛容な姿勢を示す。
また、その中には「そもそも男とはそういう生き物だ」といった考えを述べる人もいる。“名言”として知られる「不倫は文化だ」(石田純一)も、これに近いスタンスかもしれない。
堀江貴文氏は、広末の件に関連して、自身のユーチューブチャンネルで、自分の周りの既婚者には不倫をしていない人はあまりおらず、「一夫一妻制」そのものが古くさいのでは、という持論を述べている。
最近ではかなり減ってきたとはいえ、「男は浮気する生き物だ。不倫は男の本能だ」といった表現をする人は珍しくない。こうした立場の人は、動物には一夫多妻制が多いことを根拠にしていることもあるようだ。実際にゴリラは一夫多妻、チンパンジーなどは乱婚である。
しかし、サルがそうだからといって、科学的に見た場合、本当にヒト(のオス)は浮気するのが当たり前であり、本能なのか。
実は、一部の男性には不都合な話であるが、そうでもないようなのだ。
遺伝などのタブーに迫ったベストセラー『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』(橘玲・著)の中から、この問題についての箇所を紹介してみよう(以下、同書をもとに再構成)。
***
哺乳類の番(つがい)のつくり方には、一夫一妻制、一夫多妻制、乱婚の大きく3つがある。霊長類ではゴリラが一夫多妻、チンパンジーとボノボが乱婚、テナガザルが一夫一妻だ。
それでは、ヒトはどうなのだろう。
デズモンド・モリス(『裸のサル』)を筆頭とする標準的な理解では、ヒトは「一夫多妻に近い一夫一妻制」とされてきた。男は妻が他の男と“関係”を持たないよう拘束する一方で、機会があれば妻以外の女性と性的関係を結ぼうとする。
それに対して女は、夫が自分と子どもを裏切って他の女に資源を投じることを警戒する。
この相互監視によって一夫一妻が人類に普遍的な婚姻関係になるが、男の欲望は可能なかぎり多くの女と関係を持つことなのだから、権力を持てばまっさきにハーレムをつくろうとする。
このことは、オスとメスとの身体的特徴のちがいからも確認できる。
ゾウアザラシやトドを見ればわかるように、一夫多妻の種はハーレムをめぐってオス同士がはげしく競争し、身体が骨格の限界まで大きくなっていく。
その一方でメスにはオスをめぐる競争はないから(いったんハーレムの主になったオスは、周囲にいるメスと手当り次第に交尾する)、オスとメスの体格のちがいは大きく開いていくだろう。
霊長類ではゴリラがこのタイプで、オスの体重はメスの2倍ちかくある。
それに対して一夫一妻制ではオスも競争の必要がないから、メスと同じ体格のままのはずだ。――実際、テナガザルは雌雄(しゆう)でほとんど区別がつかない。
乱婚も事情は同じで、オスはゴリラのように巨大な身体を持つ必要はない。
チンパンジーやボノボのオスがメスより10~20%大きいだけなのはこのためだ。
ヒトのオスも、メスよりは大きいが顕著なちがいがあるわけではない。
このことはヒトが一夫多妻よりは一夫一妻に近い証拠だと考えられてきた。
その「大きさ」で考える
性戦略を表わすもうひとつの身体的特徴は、男性の生殖器の長さと「タマ」の大きさだ。
成人したゴリラのオスは体重200キロ近くになるが、生殖器の長さは約3センチで、タマは大豆ほどの大きさだ。
なぜ身体ほどに立派ではないのかというと、オス同士の競争はその前に終わっていて、行為そのものにコストをかける必要がないからだ(ハーレムのメスと自由に関係が持てるのなら、生殖器を立派に発達させる必要はない)。
一夫一妻でもこれは同じで、テナガザルのオスの生殖器は小さく、タマは身体のなかにしまいこまれている(これはゴリラも同じ)。
それに対して乱婚のボノボは、ゴリラの5分の1の体格(平均体重40キロ)にもかかわらず生殖器の長さは約3倍で、タマにいたってはLLサイズのタマゴくらいの大きさだ。
それでは、ヒトのオスはどうなっているのだろう。
タマはゴリラやテナガザルよりも大きいが、ボノボやチンパンジーよりも小さい。
これもまた、ヒトの本性が一夫多妻でも乱婚でもなく一夫一妻制に近いことの証明だとされてきた。
***
あくまでもここで述べられているのは、浮気の主体が男性というパターンについての考察だが、少なくとも生物学的に見た場合には、「男は浮気する生き物だ」という言い訳はいささか苦しいのかもしれない。
※『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』から一部を引用、再編集。