NHK元ディレクターが「ニュースウォッチ9」“捏造報道”を検証 “取材の素人”が企画、番組責任者は「栄転」していた
急遽行われたロケ
この時点でAは、上司だけでなく当日同行する職員カメラマン等のスタッフ、ニュースウオッチ9の責任者にも、「ワクチンの接種後に亡くなった方をロケする」ということを報告。
実際、ロケ前に作られた報道関係者限りの周知文書の中にも、ニュースウオッチ9の責任者が「副反応で亡くしたと訴えるが表現は慎重に」、「5類になっても忘れて欲しくない、という方向で」という指示を残しています。
つまり、番組責任者はロケが始まる前から、取材対象者が「ワクチン被害者遺族の会」だと知っていたのです。
そして、正式に許可を得たAはロケを実施しました。
「繋ぐ会」が公開したロケ当日の映像を見ても、Aは終始、新型コロナワクチンの話題を避けるように、悲壮感ある話を聞き出そうとだけしています。取材の映像を見る限り、明らかにインタビューロケの経験が乏しく、要領を得ないものでした。「広い意味でのコロナ禍の犠牲」という方向に寄せようとするAの取材を受けた皆さんの苛立ちも伝わってきて、私自身が申し訳ない気分になるくらいでした。
東京・渋谷のNHK放送センターにAが戻ったのは13日の深夜。Aは恐らく翌14日にインタビューの書き起こし等の作業を実施。15日の午前から自ら映像を編集の上、夕方にかけて2回、ニュースウオッチ9の最高責任者である編責(へんせき)による試写が行われました。通常の流れなら、その後、音楽とテロップの仕上げを行った上で、技術担当者も参加する技術試写(完成試写)を経て放送となります。
番組上層部も「知っていた」
なぜ、これほど綿密なチェック体制を経たにもかかわらず 、あの“捏造報道”が世に出てしまったのか? 私もにわかには信じられません。
実は、NHK報道局には「新型コロナワクチンのデメリットは伝えない」という基本方針があるのです。私自身、在籍していた最後の1年間は、ほぼ新型コロナ報道の専任担当だったのでよく知っています。私の担当番組で、一般向けの集団接種の折、「接種後には2~3日にわたって高熱が出ることもあるので、休みやすい体制をとることが大切」といった副反応情報を伝える放送を出したことがありますが、報道局幹部が「そんなことを伝えて接種率が上がらなかったらどうするんだ」とクレームをつけてきたこともありました。ですので、ワクチンの4文字が提案票に含まれていたら、絶対に採択されていませんでした。
取材に不慣れなAの動向を直属の上司は比較的細かく確認していました。ロケには職員のカメラマンが帯同しています。さらに、試写は必ず参加者全員がインタビュー起こしを手に取って、回答趣旨を編集で歪めていないか細かく点検することがNHKではルールになっています。試写にはAの直属の上司に加えてNHKスペシャルの制作歴もあるCP(チーフプロデューサー)と報道局幹部であるニュースウオッチ9の編責2名も参加していましたが、「短いVだし、広い意味ではコロナ禍の犠牲として先方も納得していたとAが言っているんだから、この編集でいいだろう」と、あのVTRでOKが出たそうです。
関係者全員が納得の上で放送に至ったことを示す証言もありました。15日の夜、Aの直属の上司は、Aの手柄であることを強調するような内容を、局内のTeamsに投稿したというのです。後ろめたいことがあったとしたら、このようなことをする訳がありません。
さすがにAも良心の呵責があったのか、放送直前、「繋ぐ会」に電話でお断りをしていますが、Aが試写の段階で「新型コロナワクチンの接種後に亡くなられた方と伝えるべきだ」と強く主張した形跡はなかったようです。
担当者のAだけでなく、直属の上司、カメラマン、CP、2名の編責、いずれも安全弁としての役割を一切果たさず、提案票に忠実に放送を出したのです。
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