NHK元ディレクターが「ニュースウォッチ9」“捏造報道”を検証 “取材の素人”が企画、番組責任者は「栄転」していた

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「提案票」に「ワクチン」の文字はなかった

 では、今回の映像の提案票はどうだったのか。私は「提案票を見た」という複数の報道局関係者に取材しました。彼らは「元々の提案票には、ワクチンという文言がなかった」と証言しました。

「繋ぐ会」が公開した担当者Aから送られてきた「取材要項」の中にある「放送の狙い」に、恐らく提案票からコピペしたと思われる記述が残っています。提案票の原文までは入手できませんでしたが、私は職員としての長年の勤務経験からピンときました。

《 国内で初めて感染者が確認された2020年1月から3年余り。この長すぎる期間、数えきれない生活の変化や嘆きを伴い、私たちは翻弄され続けてきた。5類移行がもたらした人々の喜びの裏にある、嘆きの証言をスケッチし「決して忘れてはいけない」「フタをされてしまうことを断じて看過してはならない」ものとして発信するとともに、私たちにとってこの3年間はなんだったのかを共に考える》(「繋ぐ会」関係者が公開した5月10日付の文書)

「嘆きの証言をスケッチ」という映像に関する独特の修辞を使った記述、「この3年間はなんだったのかを共に考える」という結びのフレーズは、提案票でよく使われる特有の表現なのです。通常、ベテランの取材者なら、取材相手に送る文書には使いません。

 私が提案票だと疑っているこの文書にも、ワクチンという文言は一切含まれていません。5月15日に放送された1分ほどのVTRは、提案票を基にしたと思われる取材要項の通りのものでした。

取材先が見つからず焦っていたA

 ここで疑問なのが、担当者Aの真の狙いです。一部、メディア関係者からは、「Aには新型コロナワクチンの負の側面を伝えようとした志があったからこそ、確信犯的に今回のような方法を取ったのだ」といった、Aを擁護するような論調も見られました。

 私もこの点が気になったので、さらに制作経緯について局関係者に深く取材を行いました。実際は、企画スタートの段階で「ワクチン被害者遺族の会」に取材する予定は一切ありませんでした。

 Aに与えられたロケ期間は1日。取材経験が乏しいAはまず、5月13日に予定されていたダイヤモンドプリンセス号の出航の様子を神戸で撮影する前提で日帰り出張の予定を組みました。その他、5類移行後の飲食店関係者のロケも行う予定がありましたが、それだけでは提案票に記された「犠牲を悼みつつ教訓を伝える」という狙いを達成するための「メッセージ性が弱い」と上司から指摘が入ったようです。

 そこでAは、コロナ禍で命を落とした方々の取材をロケ直前に急ピッチで進めました。

 しかし、報道局関係者によると、都合よく13日に関西方面でロケができる取材先が見つからず、Aは焦ります。そこでたどり着いたのが「繋ぐ会」の公式ホームページでした。「ワクチンの接種後に亡くなった方も、広い意味ではコロナ禍の犠牲だろう」と考えたAは、取材を打診して承諾を得ます。

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