「配送」を軸に事業展開し市場の1割を目指す――佐藤順一(カクヤスグループ会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】
酒市場縮小の中で
佐藤 それからもう一つ、私が興味を持ったのは「KAKUYASU class 銀座 Wine Cellar」です。銀座の高級クラブにワインを届けている。
佐藤(順) 銀座のクラブにはだいたい数百万円分のワインが置いてあります。でも店のセキュリティーがあまり堅固でなく、従業員が持ち出す可能性もあるので、オーナーは日々チェックしているそうなんですね。
佐藤 何十万円、場合によっては100万円以上のワインがありますからね。
佐藤(順) そうなんです。だから、ウチでその在庫を持って注文に応じて届けることにしたらどう? と聞いてみたら、すごく助かるというんです。そこで取引のある銀座の高級クラブすべてのワインリストを借りて、その最小公倍数を在庫してお届けするサービスを作ったんです。
佐藤 非常に面白い発想ですね。何本くらい常備しているのですか。
佐藤(順) 数千本です。額でいえば億単位になります。最初は、銀座6、7、8丁目をすべてやろうと思っていたのですが、お客さまを待たせるのは10分が限界なんですね。しかも赤ワインは澱が舞わないよう、そっと持っていかなくてはならない。それで7丁目と8丁目でも、電通通りと中央通りだけのサービスとして始めました。みんなソムリエのような格好をして、歩いて配達します。だから店の人と見分けがつかないですよ。
佐藤 どのくらいの売り上げがあるのですか。
佐藤(順) 1日1千万円くらいですね。
佐藤 それはすごい。非常にいいところに目をつけられましたね。これも配送から作られたビジネスです。
佐藤(順) 評判がいいので、いまは銀座にもう1カ所作り、6、7、8丁目を網羅できるようになっています。
佐藤 お酒の市場は全体的に縮小傾向にあります。また今後は少子化、人口減になりますから、必ずしも明るい未来が開けているわけではない。それでもさまざまなところに、ビジネスの種がある。
佐藤(順) 縮小マーケットであることは確かです。ただ、だいたいどの業界でも、トップ企業は全体の1割程度のシェアを持っています。お酒の市場が4兆円とすれば4千億円です。でもいまは売上高が1千億円くらい、だからまだそのシェアを取っていない。
佐藤 なるほど、そう考えるのですね。
佐藤(順) もちろんマクロで減っていますから、やはり高価で価値のあるものを中心に売っていくことも必要だと思います。銀座のクラブのママさんは、「コロナで客数半分でも、客単価を倍にすればチャラだから」と言っていました。その言葉通り、高級品にシフトして、酒代は増えたんです。だからわれわれとしても非常にありがたかった。
佐藤 日本の中産階級の上層部はかなり厚みを増しています。ですからそこへ向けたビジネスは、どんどん広がるでしょうね。
佐藤(順) 弊社には「元日初しぼり」というお正月用に販売しているお酒があります。大みそかに搾り出し、元旦にでき上がる。それを蔵元から直接配送センターに持ってきて、各店舗に流して、1日夕方の食卓に間に合うようにします。
佐藤 お祝いの生酒ですね。そういう付加価値をつけていく。
佐藤(順) そうすれば単価は上がります。一つ一つこうした工夫をしながら、われわれはやれることをきちんとやっていく。そうすればまだまだ伸びていくと思いますね。
[4/4ページ]