「配送」を軸に事業展開し市場の1割を目指す――佐藤順一(カクヤスグループ会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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業務用を組み合わせる

佐藤 ちょうど20年前のことですね。赤字はどう解消したのですか。

佐藤(順) 家庭用はもう全然ソロバンが合わない。そこでこの配達の仕組みを業務用でも使ったらどうだろう、という話が社内から出てきたんですね。というのも、飲食店の注文は、その日の営業が終わった後に入れていただき、翌朝、出社した人が伝票を起こして、酒をトラックに積み込み、グルッと都内を一周してお届けする。この「ルート配送」が一般的なんです。

佐藤 閉店後、どれだけ売れたかを確認して、注文を出すわけですね。

佐藤(順) そうです。でも急に宴会が入ったり、たまたま多くのお客さまがいらして、お酒が足りなくなることもある。そんな時、私どもは2時間でお届けできます。

佐藤 ただ、それぞれの飲食店には出入りの業者がいますね。

佐藤(順) ええ、業務用の業者は組合がすごく強いので、顧客を奪うようなことは御法度です。だから、酒屋さんを変えていただく必要はありません、困った時にカクヤスを思い出してください、という感じで、都内の飲食店9万店に営業しました。

佐藤 全部ではありません、椅子を一脚だけ置かせてください、ということですね。見事なやり方です。

佐藤(順) やはり当日の注文で済むとなったら、前日に頼む人はいなくなります。その日の天気を見たり、宴会の入り具合を見たりして、今日は樽1本追加しようとか、減らそうと考えます。もう雪なんか降った日には、お客さまは来ませんから。

佐藤 必要な分量をその日に頼むという習慣が生まれた。

佐藤(順) はい。それで十数年かけて積み上げてきた家庭用配達の売り上げを、わずか3年で業務用が抜いてしまうんです。そしてお店の売り上げは来店、一般家庭へのお届け、近所の飲食店への配達が、1対1対1になりました。ある意味、結果オーライですね。家庭用でペイすると思ったら見込み違いで、業務用を入れたらそこがすごく伸びた。そこで全体としてのビジネスモデルが成立して、上場まで果たしてしまったわけです。

佐藤 上場は何年ですか。

佐藤(順) 2019年です。ただ、その後にコロナ禍に見舞われたでしょう。緊急事態宣言が出て、不要不急の外出自粛が求められ、飲食店には休業要請が行われました。そこで業務用の売り上げが2割ほどに減ってしまった。

佐藤 飲酒を伴う会食が最大の悪者とされましたからね。

佐藤(順) ただ家庭用の配達を2倍にすれば全体の売り上げは担保できます。そこで「宅配倍増計画」を始めた。この時は、創業以来初めてとなるテレビコマーシャルを流しました。

佐藤 確かお笑い芸人のバナナマンが出てくるCMですね。

佐藤(順) はい。これで4割ほど増えたのですが、倍にはならなかった。その中で若干ですが、業務用が動き出します。でも業務用の配送を家庭用に回していますから、それに対応できない。そこでコロナ禍2年目に業務用だけの即配網を作りました。それまでは店舗から業務用の配達を行っていましたが、飲食店専用の倉庫で注文をもらい、1時間以内にお届けするようにした。

佐藤 コロナ禍の中で配送を拡充されたのですか。

佐藤(順) 当時、社外取締役から「30億円も赤字を垂れ流しているのに、そんなことやるか?」と言われました。でも家庭用を伸ばすのだから、業務用で即配するルートは必要です。だから「ここは耐えられると思うんです」と言って押し通しました。

佐藤 それは売り上げの分母が大きくなっていたからできることですね。

佐藤(順) コロナ前は1千億円ありました。入社時の7億円ではとても耐えられません。それでいままでの大きな業務用ルート配送網と、家庭用の宅配網の間に業務用即配網が入り、3層構造になりました。

佐藤 あの危機の中でも、更なる基盤強化に取り組まれていた。そしてコロナ禍をきっかけに、お酒だけではなく、ペット用品なども運ぶようになりましたね。

佐藤(順) 3層化すると、店舗が業務用に割いていた配送枠が余ります。物流でコストを減らすには、平準化することが一番です。お酒の配達は午前10時から12時と、午後は4時から注文が入り出し、6時、7時頃ピークを迎えます。だから12時から4時で運べるものを考えた。

佐藤 運ぶのが面倒なものほどいいですよね。

佐藤(順) その通りです。そこで出てきたのがペット用品でした。巣ごもりでペットは増えていました。

佐藤 猫砂などは、かなり重いですから。

佐藤(順) そうですね。いまはそこから日用雑貨、貯蔵できるものへ広がっています。

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