「配送」を軸に事業展開し市場の1割を目指す――佐藤順一(カクヤスグループ会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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東京23区2時間以内配送

佐藤(順) この最初のピンチはディスカウントショップで乗り越えたのですが、1996年にお酒のマーケットがピークアウトします。当時、酒類市場は7兆2千万円もありましたが、いまはぎりぎり3兆円台です。

佐藤 若者の酒離れは、コロナ禍のずいぶん前から指摘されていました。また発泡酒なども登場して、お酒の単価も下がりましたね。

佐藤(順) お酒の業界は、圧倒的な固定費の産業です。例えば、ビール工場を建てたら、人は最低限いればよく、減価償却したあとはほぼ儲けになります。そこでシェア争いを繰り広げることになる。ところがマーケットが縮小すると、固定費は変わりませんから、市中に流している販売促進費や交際費を削ることになります。つまり安売りの原資となっていたものがなくなる。

佐藤 ディスカウントショップにしてみれば、死活問題ですね。

佐藤(順) だから、いつまでも安売りだけだったら潰れるな、と思いました。しかも1998年には酒販規制緩和が閣議決定されるんですね。

佐藤 免許さえ取得すれば、誰でもどこでも売れるようになった。

佐藤(順) 2003年9月に完全自由化ということでしたから、それまでに何とかしなければならない。先ほどお話ししたように、お酒は商品で差別化はできません。もちろん、2、3店なら徹底的に接客を磨いて差別化する方法もありますが、当時、20数店ありましたから、それもできない。そこで行き着いたのが、配達を進化させること。つまりこれまで自分たちの都合で制限していたことを取り払おうと考えたんです。

佐藤 すでに無料にしています。

佐藤(順) ただ遠くまでは行けませんから、配達にはエリアの制限を設けていたんですね。またたくさん買っていただいた方が儲かりますから、ロットの制限もあった。そしてすぐには配達できませんから、時間の制限もありました。このエリア、ロット、時間の制限をなくせないかと思ったんです。

佐藤 ビール1本でも、すぐに運ぶようにするのですね。

佐藤(順) はい。当時のカクヤスは2時間以内にお届けということで、1店舗の商圏は半径1.2キロでした。もちろん日本全国はできません。でも東京23区内に絞れば話は簡単で、23区の面積を1.2×1.2×3.14の積で割れば、何店舗必要かわかる。それが137という数でした。その時、30店舗ほどでしたから、あと100店舗ちょっと出せばいいとわかった。

佐藤 その計画を立てたのは何年のことですか。

佐藤(順) 2000年の初めです。自由化まであと3年半、つまり1年で30店舗くらいずつ出せば、23区が埋まる計算です。

佐藤 相当な拡大路線です。

佐藤(順) 尋常じゃないですね(笑)。しかもここでも大きな錯誤がありました。価格は万人共通の選択基準になりますが、「便利なお届け」という付加価値は、人によって受け止め方が違う。足の不自由なお年寄りなら、100円高くても買っていただけるかもしれませんが、元気いっぱいの大酒飲みには、10円でも安いところがいいわけです。しかも一度使ってみないと、その評価もできない。

佐藤 確かに「便利なお届け」には、漠然としたところがありますね。

佐藤(順) だから出す店、出す店、みんな赤字でした。チェーン店では赤字店がだいたい2割あると、利益全体が飛んでしまうといわれます。カクヤスが100店舗になった時、67店舗が赤字でした。

佐藤 よく資金が持ちましたね。

佐藤(順) 銀行に「物流インフラとして捉えられませんか」と融資をお願いしたのですが、ダメでした(笑)。

佐藤 では、どうされたのですか。

佐藤(順) この仕事は現金商売なので、お金を回すことはできたんです。それで2003年6月くらいに、東京23区が埋まった。その圏内はどこからでも電話一本で2時間以内にお届けできるようになりました。

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