なぜ「中国雑技団」が日本へ? “燃焼系CM”出演が転機となりショッピングモールに引っ張りだこ

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1人で6脚運べる椅子を設計

 独立した張さんは当時29歳。あいかわらず日本語が堪能なわけではなかった。

「それでも中国に帰るということは考えなかったです。その時点でもう8年、日本にいましたから、住み慣れた国を離れたくはなかった。フリーになるからには日本語が上手にならなくてはいけないと、そこからは本当に勉強を頑張りました」

 2009年に独立し“1人雑技団”となった張さんだが、日本語以外にももう1つ大きな障壁があった。それは得意技である逆立ちの演目で使う椅子の問題だった。

「椅子を6つくらい重ねて、その上で逆立ちをするダイナミックな技があります。海外公演の時、その椅子を運ぶのが大変でした。というのも、公演会場に椅子を6つ持って行こうと思うと、配送料がものすごくかかる。依頼が来ても『配送料がこれくらいで……』と話すと、断られることもありました」

 そこで考えたのが、1人で持ち運びができる組み立て式の椅子だった。

「脚を1本ずつ取り外しができて、コンパクトになる椅子を設計しました。こんな風に作ってほしいと自分で中国の職人さんに持って行ったんです。組み立てるのに少し時間はかかりますが、1人で持ち運びができるようになったので海外公演に行きやすくなりました。同じように椅子を使った雑技をしている人からは、よく羨ましがられます」

 国内公演で使用する木製の椅子についても、配送業者が運びやすいよう専用の木箱を自ら作成した。そして持ち運びしやすくなった椅子とともに、学校行事や大道芸イベントなど各地を回った。

「基本は1人で30分くらい演技をしていましたが、長い公演の時には知り合いに声を掛けて演目を増やしたショーを作っていたこともあります。地道に公演を続けるうちにだんだんと仕事も増えてきて、独立して6年後の2015年には会社を作って事務の人も雇えるようになりました。さらに、17年に静岡で開かれた大道ワールドカップでチャンピオンになってからは、オーストラリアや韓国、タイの公演にも呼ばれるようになりました」

44歳でも現役

 2018年と19年には河北省の雑技団に所属していた2人が来日し、メンバーに加わった。

「今年の秋には、新たに女性メンバーが加わります。これまで男3人だったので力強い感じの技が多かったですが、新たに加わる女性演者は軟体アクロバットや皿まわしが得意で、新しい形のショーができるんじゃないかと楽しみです。近くに練習場を借りる計画もあるので、ますます技に磨きをかけられます」

 今年のゴールデンウイークは特にショッピングモールからの依頼が多く、メンバーで分担しながら全国各地を飛び回った。

「やはりコロナ禍は仕事が減って厳しい状況でしたが、3年間に溜まった仕事が、いま一気に来ています」

 学校での芸術鑑賞会に招かれることも増えた。

「『中国の伝統文化を日本へ伝える』『日中友好への願い』という目的を持って活動しているので、先生や生徒さんに拍手や歓声をいただくたびに、日本で活動を続けて来てよかったという思いがこみ上げます」

 もちろん張さんも現役だ。

「44歳になりましたが、いまでも30分間、1人でショーをしますよ。私の得意技の1つは逆立ち。練習の時は椅子に乗る必要はありません。だから毎日、家の床で練習しています」

 現在は1カ月間にわたる計5カ所のイタリア公演の最中だ。

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