欧州の駐日大使館に勤務するフィリピン人清掃員を尾行して判明した意外な事実【元公安警察官の証言】

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 日本の公安警察は、アメリカのCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)のように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩み、数年前に退職。一昨年『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、欧州の駐日大使から相談された外交公電漏洩疑惑について聞いた。

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 10年ほど前、勝丸氏は公安部外事課で各国大使館や総領事館を担当していた。主な任務は、大使館で起こったトラブルなどに対応することだった。

「欧州のある駐日大使から連絡が来ました。大使しか読めない外交公電が中国に傍受されている疑いがあるというのです」

 と語るのは勝丸氏。

「外交公電とは、大使館や領事館と本国の外務大臣との間でやりとりされているテキストベースの機密情報です。公文書扱いされ、一般人によるアクセスや外国政府に傍受されないように高度な安全対策が施されています」

2人が浮上

 外交公電はどんな機密情報を扱うのか。

「例えば、本国の情報機関の幹部が密かに来日するなどの情報が送られてきたりします。もちろん、日本のメディアには一切公表しないものです。大使館はこの外交公電を受けて、ホテルを手配したり、レストランを予約したりします」

 大使によると、情報機関の幹部が来日してイベントなどに参加したところ、なぜか中国大使館の協力者も会場に現れた。そして情報機関の幹部が誰と会っていたか、何を話していたかを探っていたという。

「欧州の大使館は、日本の公安警察と同様に国内にいる中国の諜報機関の協力者を把握しています。大使は、なぜ情報機関の幹部の行動日程を知っているのか不審に思って調査した結果、大使館にいる2人の人物が浮上したそうです。一人は、大使室の秘書です。本国の女性で、日本人男性と結婚し永住権を取得しています。もう一人は、大使館が清掃員として雇っていたフィリピン人男性でした」

 勝丸氏は、大使からこの2人を調査して欲しいと依頼された。

「公安部の精鋭部隊が1人につき3人ずつ計6人体制で監視しました。3週間尾行した結果、女性秘書は勤務が終わるといつも真っ直ぐ自宅に帰っていることがわかりました。休日も夫と過ごし、特に怪しい動きはしていませんでした」

 一方の清掃員の男性には、同じフィリピン人の妻がいたが、子供は本国の親に預けていた。

「こちらも怪しい動きはしていないと思ったのですが……。2週間に1回、都内のカトリック教会に通っていることがわかりました。この教会の神父は日本人ですが、信者はほとんどフィリピン人でした。フィリピン人のコミュニティになっていたようです」

 公安部の捜査員は顔を覚えられてしまうのはよくない。さすがに教会の中には入れなかったという。

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