「マイナ保険証を使わない人への嫌がらせ」 マイナ推進なら「保険証廃止」で医療情報の「誤ひもづけ」問題も
「事実上のペナルティー」
「うちではマイナ保険証をカードリーダーにかざした時、“該当ナシ”と表示された患者さんが2名いました」
とは、大阪・北原医院院長で、大阪府保険医協会副理事長の井上美佐氏である。
「ひとりは転職されて社会保険から国民保険に変わった方、もうひとりは結婚されて名字が変わった方で、いずれも数カ月間、情報が更新されなかったようです。来院の際は紙の保険証もお持ちで、10割負担にならず、事なきを得ました。しかし、紙の保険証が廃止されたら、10割負担をお願いするケースが続出する可能性があります。いままでの保険証は廃止しないでほしいと思いますね」
よほど政府はマイナ保険証を推進したいのか、この春からは「保険証差別」というべき施策を採用している。マイナ保険証のオンライン確認システムを導入し、推進のポスターを張るなど、一定の要件を満たした病院で患者が初診で受診した際、従来の保険証の方が40円高くなるシステムになっているのだ。
厚労省は今年12月までの時限措置、としているが、
「うちの医院では患者さんからそうした加算は取らないようにしています。なぜ、従来の保険証を使う人の診療費が高くなるのか。これはマイナ保険証を使わない人への嫌がらせ以外の何ものでもない、事実上のペナルティーですよ」(同)
「医療の質を上げることにはならない」
そもそもマイナ保険証にすることで医療の質は本当に向上するのか。
「現状では、マイナ保険証で患者さんの過去の薬剤情報やレセプト(診療報酬の明細書)を見られることになっています。ただし、限られた過去の情報しかわかりません。検査結果の数値はわからないですし、胃の摘出手術を行ったというのがわかっても、手術内容はわからない。見られる情報は少なく、医療の質を上げることには全然なっていないんです」(同)
厚労省はレセプトだけでなく、将来的に患者の詳細なカルテ情報がマイナ保険証によって呼び出せるよう検討している。しかし、ここにもリスクが。
「詳しい医療記録をマイナ保険証と連携させていく際に、誤ってひもづけされた他人の記録と結びついた状態で医療行為が行われれば、命に関わる事態になります。ここが最も懸念される点です。長い人生では保険証の番号が何度も変わることがあります。だからこそ、生涯不変のマイナンバーで管理すれば、高度な医療情報を連携させる場合も、子どもの時からずっと同じ番号で自分の診療記録をつなげることができるのですが」(榎並氏)
ポイント事業など普及に向けてこれまで2兆円を超える予算を組みながら、さまざまなリスクが指摘されるマイナカード。マイナンバーはすでに2015年、全国民に番号が振られ、制度としての運用が始まっている。今回のマイナカード騒動は、複雑な設計を重ねたカードにさまざまな機能を搭載し、普及を急ごうとした結果、ゆがみが顕在化してしまった事態といえるのだ。
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