黒木瞳が主演作「魔女の香水」で美しすぎるグレイヘアに 「人生は、出会いとタイミング。どのタイミングで背中を押してもらえるかで、運命は変わる」

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「街並み再生」で話題の渋谷百軒店(ひゃっけんだな)にかつて存在した香水専門店「MARISOL(マリソル)」。そこには、訪れた客の好みなどを聞き、その人にふさわしい香水をセレクトしてくれる伝説のスタイリストがいた。この香水専門店をモデルに作られたのが、映画「魔女の香水」。2013年に百軒店のドキュメンタリーを撮った宮武由衣監督が温め続けてきた企画だ。宮武監督と二人三脚で本作に挑んだ黒木瞳に話を聞いた。

ミステリアスでカリスマ性のある女性・弥生

 香水専門店のスタイリスト・白石弥生は、お店を訪ねるさまざまな背景を持った顧客の背中を、香りと言葉で押し、まるで魔法のように次なるステージへと踏み出させる。顧客たちは、親愛の情を込めて弥生を“魔女さん”と呼んだ。「魔女の香水」で黒木瞳が演じる弥生は、そんな人物だ。

「香水をモチーフにした映画なんて珍しい上に、宮武監督のオリジナル脚本。それだけで惹かれました。私自身は、香水をつけない日はありませんので、つけていないと何か忘れ物したような感覚になります。今はロシャスの『ビザーンス』、宝塚時代はイヴ・サンローランの『リヴ・ゴーシュ』を愛用していました。両方とももう廃番になっているので、この映画を機に新しい香りを探そうかなと思っています」(黒木、以下同)

 本作の肝は、当然、黒木の演じる“魔女さん”こと弥生だ。だから弥生には、勇気を出して店を訪ねた人々に、「こんなふうに歳をとりたい」と思わせる容姿、ミステリアスさ、カリスマ性、そしてインパクトが必要だった。

 まさしく魔女。そんな存在にリアリティを持たせるために、宮武監督と黒木は髪型や衣装などをとても細かく検討したという。「弥生の髪色をグレイヘアにしたい」という宮武監督の希望のもと、黒木は一緒にウィッグの色味、髪型などを丁寧に吟味した。

 もうひとつ、演出的な意味で監督がこだわったのは衣装だ。弥生の店の1階を“人を幸せにする魔女”を演じる舞台、2階の調香室は孤独を隠さず1人の女性になる場所と設定したため、1階にいるときの弥生は魔女感のあるミステリアスな黒い衣装、2階ではレースやニットなど繊細な素材の衣装を選んだ。

 ただし、それが記号的になりすぎると「単調になるのでは?」と黒木はアドバイスをし、その上で具体的なアイデアを提案したという。宮武監督は「最後は信頼して委ねてくださる。本当にありがたくて。この映画は二人三脚で作ったようなものです」と語っている。

 それを黒木に伝えると、「そう言っていただけるのはうれしい限りです。でも私は監督の明確なビジョンにしたがっただけなので」とあくまで控えめだ。

「女性監督作への出演は同性としてとてもうれしい」

 黒木と宮武監督は、島本理生原作のNHKドラマ「ファーストラヴ」(2020年)で出会った。黒木の役は、父親を殺した女子大生の母親。「動機はそちらで見つけてください」と言い、捜査関係者を翻弄する。宮武監督からの依頼は「あまり多くない出番のなかで、狂気を感じさせてほしい」というものだった。

 黒木は「そう言われると演じるほうはやりがいがありますし、役としても面白くて。それに、女性が監督される作品で出られるのは、同性としてとてもうれしいじゃないですか」と振り返る。

「何より、質問をするとものすごく長いメールを返してくださるんです。監督は誰しもそうだとは思いますが、宮武監督は特に熱心で、半端じゃない熱量をお持ちだった。編集などを拝見していると、あんなに華奢なのに本当に豪胆というか(笑)、バッサバッサと音がしそうな勢いでシーンを切りまくるんです。それがもう心地よくて(笑)」

 宮武監督を「出会えてうれしいと感じた監督の1人」だという黒木は、その気持ちを「ファーストラヴ」完成後に伝えた。それは宮武監督も同様だった。前作以来、「ずっと黒木を慕っている」と明かしている。そんな気持ちにさせたのは、当時の状況だ。

 宮武監督が「ファーストラヴ」の企画を進めるに際し、一番大変だったのは主要登場人物である女性たちの心理を、男性プロデューサーらに「理解できない」と言われることだった。そんな中で黒木は、俳優でありながらよき理解者だったようだ。宮武監督は「だからこそ、『ともに闘った』という思いのある黒木さんと、女性が主要登場人物であるオリジナル作品をやってみたかった」とも語っている。

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