多額の製作費は伊達じゃなかった Netflix「サンクチュアリ -聖域-」が大ヒットした3つの要素

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物語には厚みが、キャラクターには深みがある

 第三に、ストーリーが単純な勧善懲悪のような形になっていなくて、話に深みがあることだ。この物語に出てくる人物は、主人公も含めてみんな一癖も二癖もある人ばかりだ。

 主人公の小瀬清(猿桜)は、地元ではもともと札付きの不良であり、荒んだ生活をしていた。相撲部屋に入ってからも練習をサボったり、親方や先輩力士に生意気な口を利いて嫌われたりしていた。

 その後、彼の心境に変化が訪れるのだが、悪者だったイメージがすべて塗り替えられるわけではない。猿桜は決して清廉潔白な正義の味方ではない。でも、そこがドラマとして味わい深いところでもある。

 彼のライバル的な存在である静内という力士も、壮絶な家庭環境で育ち、心に傷を負っている。それ以外の主要な登場人物も、一筋縄ではいかないキャラクターを持っていて、はっきりした善人や悪人がいない。それぞれの人間が清濁併せ呑んで、自分なりの倫理観で現実に向き合っている。そういうところが実に見ごたえがある。

 単に面白いだけではなく、物語に厚みがあって、キャラクターに深みがある。こういう重くてしっかりしたドラマが評価されているのは喜ばしいことだ。地上波よりも制約の少ないNetflixでこそ作る意味がある傑作である。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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