名古屋城「エレベーター問題」に抜けている視点 なぜ“木造復元”するのか原点に返るべき

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 木造による復元が検討されている名古屋城天守が差別発言問題に揺れている。事が起きたのは6月3日、名古屋市が開催した市民討論会の場で、そこでは再建される天守のバリアフリー化について話し合われていた。

 現状、市の計画では、車いすの利用者と介助者の二人が同時に乗れる昇降機を地階と1階のあいだに設置することが決まっているが、それを最上階まで設置するかどうかに関しては、結論が出ていない。ただし、名古屋市は「様々な工夫により、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指し、現状よりも天守閣のすばらしさや眺望を楽しめることを保証する」という方針を明らかにしている(名古屋市『木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針』) 。

 一方、エレベーターに関しては、史実に忠実に復元すると、一般的な車いすを乗せられるサイズのものは設置できないとしている。それに、そもそも高層の木造建築にエレベーターを設置することが困難だという事情がある。エレベーターは揺れてはいけない構造だが、在来工法による木造建築は、地震の際は揺れることで振動エネルギーを吸収する構造になっている。このため、早い段階で名古屋市はエレベーターを設置するという選択肢を見送っていた。

 ところが、市民討論会で車いすの男性は、「いままであったものをなくしてしまうというのは、われわれ障害者が排除されているとしか思えない」と発言したのである。

本質的な議論が置き去りに

 障害者に最大限の配慮をし、彼らの便宜に供する最善の方法をギリギリまで模索するのは当然で、きわめて重要なことである。ただし、この車いすの男性の発言は、あきらかに誤解にもとづいている。

 昭和34年(1959)に鉄筋コンクリート造で外観復元された現行の天守に設置されているエレベーターを、木造で復元する天守に設置できないのは、障害者を排除するためではない。ひとつは史実に忠実に復元する必要があるため。もうひとつは、大型のエレベーターは在来工法による木造建築に適合せず、無理に設置すれば危険をともなうからである。

 車いすの男性の発言に対し、討論会の参加者が「平等とわがままを一緒にするな。エレベーターも電気もない時代につくられたものを再構築するという話。そのときに、なんでバリアフリーの話が出るのかな、というのが荒唐無稽で、どこまで図々しいのという話で、我慢せいよという話なんですよ」などと、心ない発言をしたのは残念だった。

 しかし、こうした差別的な発言が飛び出したために、障害者差別という案件が独り歩きして、木造復元天守のバリアフリー化がどこまで可能で、どこからは難しいか、そもそもなんのための復元なのか、という本質的な議論が置き去りにされてしまったことも、また残念なことだった。

 では、木造復元において、どこまでバリアフリー化を実現すべきなのか。それを考える前提として、名古屋城天守の歴史的な価値と復元する意義について、確認しておく必要があるだろう。

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