何にでもクレームをつける日本人 なぜ休憩中に食事をするだけで文句を言われる?(中川淳一郎)

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 一体日本人の「公」の概念って何なんですかね。最近話題となったツイートがコレです。高速バスの運転士をしているという人物によるものです。

〈バスの運転手さんがサービスエリアでカレーライスを食べている、というクレーム。休憩中にカレーを食べてはいけない理由を具体的に説明しろや!!〉

 公共の仕事をしている人が休憩をしたり食事をしているのを見られるとクレームがつくという現象は昔からありましたが、これはさすがにお気の毒。このツイートは約330万回も見られるほどの大反響でしたが、僧侶の男性が「坊さんが肉を食ってる」というクレームがくるのでは、と返信で書いていました。

 警察官がコンビニで買い物をしていたり、自販機でジュースを買っていてもクレームが入る時代です。以前、消防士が消防車でうどんを食べに寄ったらクレームが入りましたが、「いい」「悪い」の判断基準は「公的組織人が勤務時間帯に私的なことをしてはダメ」という点にありそうです。

 定食屋やラーメン屋に行くと作業服姿の人々がメシ食べてますが、「山本工務店の従業員がチャーシュー麺大盛を食べていた、けしからん!」なんて話にはならない。しかし山本工務店で家を建てた人からすれば「チャーシュー麺大盛を食えるほど給料がいいのだったらワシの家、もっと安く建てろ!」なんてアクロバティック過ぎるクレームをつけてくるかもしれない。

 公的な職業でないにしても、たとえばコンビニチェーンの袋を持ったサラリーマンが居酒屋で大声で喋っていた場合は、「オタクの袋を持つ男の声がうるさ過ぎた。公共の場での振る舞いを指導しなさい。不買運動するぞ!」なんてクレームも成立するかもしれない。クレーマーは「客だったら何を言ってもいい」と考えているのでしょう。

 もうクレームなんて何にでもつけられるんですよ。んなもん「市民の声」「お客様の貴重な意見」なんて扱いをせず、電話を受けた担当者はいちいち会社に報告しないでいいんです。いきなり電話を切ってしまってもいい。

 クレームは民度の低さを示しますが、最近話題になったのは「田んぼのカエルがうるさい」と田んぼの所有者にクレームを入れた件。「除夜の鐘がうるさい」「運動会当日の朝の花火がうるさい」もありました。

 過去にネットで「素晴らしい対応をするスーパーだ!」と話題になった件があります。スーパーって客の声と店の回答が貼られていることがありますよね。その中に「ゲイのカップルが手をつないで駐車場を歩いていた。気持ち悪いから注意してくれ」というのがあった。これに対するスーパーの答えは端的に言うと「その方々は大事なお客様で、人には自由がある。あなたのような方は客ではない。われわれはそのカップルを注意する気はない」で絶賛されたのです。

 そりゃそうですよね。こんなもんがまかり通ってしまったら、「レジの店員が痩せ過ぎている。もっと太らせなさい。買い物をする気が失せてしまう」とかだって通用してしまう。冒頭の運転士、うどんだったらクレーム受けなかったのかな? クレーマーの基準はわからん!

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2023年6月22日号掲載

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