阪神・岡田彰布監督、選手を奮い立たせた“言葉の魔術”を振り返る! 

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「お前で終わってくれて良かったよ」

 2008年、オールスター前に優勝マジックが点灯しながら、最大13ゲーム差あった巨人に歴史的大逆転Vを許した岡田監督は、巨人の優勝が決まった翌日の10月11日に辞任を表明した。

 横浜スタジアムのロッカーで藤川球児をはじめナインを前にした指揮官は「オレは責任を取って辞める。でも、CS(クライマックス・シリーズ)がある。それは頑張ろう」と最後の檄を飛ばした。

 藤川にとって、岡田監督は阪神入団時の2軍監督であるばかりでなく、2003年オフ、星野仙一前監督の後任として1軍監督に昇格した際には、トレード要員になっていた藤川を「絶対にあかん。来年から後ろで使うんや」と残留させてくれた。そして、これまで抑えとして実績のなかった藤川に「小魔神くらいにはなれるやろ」と“大魔神”佐々木主浩と同じ背番号22を着けさせた。

 この大抜擢がきっかけで、“火の玉ストレート”を武器に球界を代表するストッパーに成長した藤川は、これまでの恩に報いるためにも、CSを勝ち抜き、さらには日本シリーズと、1試合でも長く師弟の時間を共有しようと決意した。

 だが、そんな最後の夢もCS第1ステージのわずか3試合で終わりを告げる。
1勝1敗で迎えた3位・中日との3回戦、0対0の9回に登板した藤川は2死三塁で、ウッズにオール直球勝負を挑むも、フルカウントから「三振を狙った」150キロの高めの速球を左翼席中段に打ち込まれ、華々しく散った。

 0対2の敗戦後、「何で最後に自分なのかな……。監督に申し訳ないです。最後とてつもなく迷惑をかけてしまった」と泣き崩れる藤川に、岡田監督は握手の手を差し伸べながら言った。

「最後はお前で良かった。お前で終わってくれて良かったよ」

 その目にも涙が光っていた。あれから15年。「悔いがあるとすれば(オールスター前に独走)展開が展開だったからな。競っていれば、そうでもなかったかもしれんけどな」の思いが天に通じたかのように、今季は首位とはいえ、2位以下と拮抗し、ほど良い緊張感を保つ展開が続いている。

 後半戦はいよいよV争いも熾烈になる。絶対に負けられない一戦の重要局面で、岡田監督がどんな采配を見せ、どんな名言が飛び出すか、虎党も注目しているはずだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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