阪神・岡田彰布監督、選手を奮い立たせた“言葉の魔術”を振り返る! 

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「ストレートだけを思い切って振ってこい」

 2軍監督時代から目をかけていた教え子を一打サヨナラのチャンスに代打起用し、値千金のプロ初安打、初打点を実現させたのが、2007年4月20日の巨人戦である。

 延長12回に3点を勝ち越された阪神はその裏、鳥谷敬、赤星憲広のタイムリーで同点に追いつく執念を見せ、なおも2死一、二塁と一打サヨナラのチャンスだった。

 だが、6番に投手の橋本健太郎が入り、野手でベンチに残っているのは、7年目の狩野恵輔、ルーキー・清水誉の両捕手だけなのを見越した巨人・原辰徳監督は、5番・今岡誠を歩かせ、満塁策で対抗した。

 これに対し、橋本の代打に指名されたのは、前年まで通算7打数無安打の狩野だった。狩野がバットを持ってベンチを出ようとすると、岡田監督が呼び止めて言った。

「ストレートだけを思い切って振ってこい」

 この言葉で気持ちが楽になった狩野は「ファーム(にいたとき)からチャンスで見逃すのだけは嫌だった」と豊田清の初球、フォークを空振りしたが、これで肩の力が抜け、初球より高めに来た2球目を迷わずフルスイング。左翼線に抜ける鮮やかなサヨナラ安打となった。

 プロ初のお立ち台で「1軍で監督の勝利に貢献できてうれしい」と喜びを語る背番号99に、岡田監督も「最後がプロ入り初安打でな。狩野が本当に……。こういう野球もあるということ。今日は狩野のこと書いたってくれや」と感無量だった。

 勝負強さを買われ、翌21日の巨人戦でスタメンマスクに抜擢された狩野は、4回にバックスクリーン左へのプロ1号を含む猛打賞の3安打を記録している。

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