いじられキャラ「あばれる君」の際立つ存在感 本来の性格と芸風の重要な関係とは

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追い込まれた人間を演じたときに出る自然な面白み

 あばれる君の演じる1人コントには、いつもお決まりの流れがある。たとえば、代表作とも言える「ケーキ屋」のネタでは、彼がケーキ屋の店員を演じている。ウェディングケーキを届けるように客からの電話を受けた彼は、ケーキを出してほしいと店長に申し出る。

 だが、店長は予約日を間違えてケーキを作っていなかった。極限状況に追い込まれた彼は、自分が体中に生クリームを塗ってウェディングケーキになりすますという提案をする。このときに「怖くないって言ったら嘘になります」という決めぜりふを言う。

 このように、何らかのトラブルに巻き込まれて、戸惑うあまりおかしな行動に出てしまう人間を描くのが彼のコントの定番スタイルになっている。これらのネタは、単に構成が優れているだけではなく、あばれる君自身の素のキャラクターが生かされているから面白い。彼が本当に緊張しやすいタイプの人間だからこそ、追い込まれた人間を演じたときに自然な面白みが出てくるのだ。

 最近の若手芸人は技術力が上がっていて、漫才だと流暢なしゃべりで笑いを取ることが多く、コントだと演技力の高さを売りにする人が多い。だが、あばれる君はそんな風潮にも構わず、焦りながら、ドキドキしながら、必死で汗をかいてネタを演じる。その存在感は、数多くいる若手芸人の中でも際立っていた。

 何しろリアクションがいいので、ドッキリ企画などには向いている。予想外の状況に追い込まれたときの反応がたまらなく面白いのだ。スタジオでも、話を振られてうまく返せずに顔が引きつっていたりすることも多い。ただ、そこを先輩芸人にイジられることで笑いが生まれている。

 あばれる君はその後、子供向けの番組や体を張ったロケ企画などで活躍して、売れっ子の仲間入りを果たした。テレビ東京「ポケモンゲット☆TV」(2013~15年)というポケモン関連のバラエティ番組への出演をきっかけに、ポケモンにも本格的にハマっていき、そこにかかわる仕事も増えてきた。

 知名度が上がった今でも、あばれる君にはどこか初々しさが残っていて、こなれた感じがしないのがいい。いつまでもこの調子で汗をかきながら全力投球を続けてほしいものだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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