父が語る、“泣き虫”の加藤未唯が失格騒動に打ち勝てた理由 「小さな頃は毎日泣いていた」
スポーツ界で判定に異議が唱えられるのは日常茶飯事とはいえ、これほどまでに疑問符がついたのは珍しい。だが、失格の烙印を押された選手が腐らず別種目で栄冠を手にするのは、さらに稀有(けう)なこと。大逆転の裏には肉親だけが知る「栄光までの軌跡」があった。
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たった5日の間に、奈落の底から栄光の座へと駆け上ったアスリートがいる。
今月8日、テニスの四大大会のひとつ全仏オープンの混合ダブルスで、日本人3人目の優勝という快挙を成し遂げた加藤未唯(みゆ・28)。4日の女子ダブルス3回戦で「失格」となり、涙を流しながらコートを去った姿からは想像できないほどの劇的な勝利だった。
世間を騒がせた女子ダブルスの“疑惑の判定”は、加藤・スーチャディ(インドネシア)組対ブズコバ(チェコ)・ソリベストルモ(スペイン)組、第2セット第5ゲームのポイント間で下された。加藤が自陣に落ちたボールを相手コート側へ打って送った際、気付くのが遅れたボールガールに直撃。主審は加藤に「警告」を与えたが、対戦相手は、“ボールガールは泣いている”“流血している”などと繰り返し抗議した。
結果、加藤ペアは失格となった上、加藤はポイントや2回戦までの獲得賞金をも没収されたのだ。
「あんなに落ち込む姿はほとんど見たことがない」
「自宅で妻と二人で衛星の生中継を観ていて、“なんか球が当たったんちゃうかな”“これは警告になるな”と話していたんですが、まさか失格とは……」
そう振り返るのは、加藤の父・大貴さん(58)だ。
「わざと球を当てる選手なんて、ほぼ皆無だと思うんですよ。何の得にもなりませんからね。戻そうとしたボールが、たまたま飛んで行ってしまっただけで、なんの意図もない。娘は本当に何が起こったのか分からないのと、パートナーに申し訳ないというのが一番強かったんじゃないですかね。一人でロッカールームに鍵をかけて4時間も出てこなかったとコーチが言っていましたけど、あんなに落ち込む姿はほとんど見たことがありませんでしたから」
涙をこぼした加藤の姿に胸を痛めたのは、なにも肉親だけではなかった。この一件が世界中で大きく報じられると、審判に猛抗議した相手ペアの態度が「スポーツマンシップに欠ける」と大批判にさらされた。
実際、女子テニス界のレジェンドであるマルチナ・ナブラチロワ氏(66)は、SNS上で〈失格させようと審判に抗議した対戦相手ペアは恥ずべきだ。ルール変更が必要。ビデオでの検証もできたはず〉と指摘し、現役アスリートを含めて斯会の多くが疑問を呈した。
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