「関東最小の村」を引き裂いた14年ぶりの村長選 激しい票の争奪戦で遺恨が

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 多摩川の源流を擁する山梨県丹波山(たばやま)村には、かつて日本一を誇った施設がある。かつて、と書いたのは1990年に話題作りのため、ふるさと創生事業で「日本一長い滑り台」を建設したものの、すぐに他の自治体に抜かれてしまったからだ。あれから30年余り、村は人口が減り続け、当時の半分、約530人にまで落ち込んでいる。離島を除くと「関東で一番小さな村」と呼ばれているゆえんだ。

 そんな丹波山村で村長選挙が行われたのは今月4日のこと。前回の村長選から14年ぶり、平成から数えても3回目である。つまり無投票で村長が決まることが大半だったわけだが、今回は2人が立候補。投票率は99.2%と高く、わずか3票差で新人の木下喜人氏が勝利する。

 村役場の関係者が言う。

「人口500人ちょっとの村ですから、両陣営は1票単位の得票活動を行いました。でも、木下さんは村役場の元総務課長で前町長の岡部岳志さんとは元上司と部下とあって、6人いる村議の支持も半々に分かれました。さらに二人は遠い親戚関係でもあったことから、血縁を頼った選挙活動が激化。最後の最後まで票の争奪戦がありました」

厳しい財政事情

 丹波山村の場合、村民の誰もが懸念するのが厳しい財政事情だ。村の予算は年間約20億円だが、実際の税収は4千万円に届かない。大半は国からの交付税や県からの支出金、地方債である。観光の目玉は、前述の滑り台と村営釣り場、それに温泉施設の「のめこい湯」ぐらいだ。最近はふるさと納税による収入もあるが、主な返礼品は村の特産品ではない桃だという。

「その一方で岡部前町長は今年3月、10億円をかけて立派な役場新庁舎を竣工させました。村はこの建設費のうち3億8千万円を起債でまかないましたが、基金を取り崩しており、財政がますます逼迫(ひっぱく)するのは間違いありません」(同)

 新庁舎の主となった木下新村長に聞いてみる。

「選挙で村が真っ二つになってしまったことは、たしかにシコリを残してしまったと思います。しかし、これから私がやらなくてはならないのは観光業を盛り上げて税収を増やすこと。釣り場や、のめこい湯に来る客を増やして、ジビエも提供したい。稼げる“観光立村”が目標です」

 関東には千代田区もあれば丹波山村もある。民主主義を実現する選挙もさまざまである。

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