澤瀉屋の未来を引っ張るのは香川照之、團子? 「歌舞伎の世界で代役は出世のチャンス」
大黒柱を失った「澤瀉屋(おもだかや)」は今後、どうなるのか。1970年代から歌舞伎批評を書いている演劇評論家の上村以和於(かみむらいわお)氏が占う。
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澤瀉屋の未来は、市川中車(香川照之)と團子(だんこ)親子がどれだけ頑張り、それが歌舞伎界でどう認知されていくかにかかっています。
6月公演の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」で中車は初めて本格的な古典の主役を務めましたが、よくやっていました。まだまだ向上すべき点はあるものの、褒めていいのではないか、という出来でした。市川中車としてデビューして今年で11年。10年たって独り立ちできるようになったといえるでしょう。
猿之助がブレーンだった?
これまで中車が務めてきた役を振り返ると、彼にはブレーンがいて、慎重に役の選定をしてきたように思えます。そのブレーンの一人として、猿之助さんが大きく関わってきた可能性もあるのではないか。中車が今回の大役を務めるにあたり、猿之助はその妻役として出演し、そばで支えようとしていたのだと思います。それはかなわなくなってしまいましたが、その代役を中村壱太郎(かずたろう)という中堅の実力派が見事に務め上げたので、中車も安心してやれたと思います。ちなみにこの演目で中車が演じるのは、世間からなかなか認めてもらえない吃音の画家。妻の献身的な支えもあり、最後、描いた絵が奇跡的に認められる、という話です。
代役は出世のチャンス
一方、息子の團子は5月に公演された「不死鳥よ 波濤を越えて―平家物語異聞―」で猿之助さんの代役をやり切ったことで大いに評価されています。さらに、中車主役の『傾城反魂香』でも、修理之助といういい役を見事に演じ切っていて驚かされました。彼も素晴らしい第一歩を踏み出したといえそうです。
7月公演の「菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)」では、中車が猿之助の代役として主演します。元々は別の役で出る予定だったのですが、中車に白羽の矢が立ったのです。2011年、当時の市川海老蔵が暴行事件に巻き込まれ、活動を休止。代役に抜てきされた片岡愛之助がブレークを果たした例もある通り、代役というのは出世のチャンスでもある。中車と團子が代役をきっかけとして勢いに乗り、澤瀉屋を引っ張ってくれると期待しています。