新庄剛志監督 なぜずっとマスク外さない? 指揮官の表情が見えないことでプラス効果も

スポーツ 野球

  • ブックマーク

指揮官の表情が見えないと…

 意外な効果ではないだろうが、「マスクで指揮官の表情が分からない」ことで功を奏した試合もあった。6月16日の中日戦だ。

 1対1の同点で迎えた4回表だった。二死一・三塁の場面で、江越大賀(30)が打席に向かった。三塁コーチャーからちょっと長めのブロックサインが出され、「何か仕掛けてくるゾ?」という雰囲気はあったのだが、新庄監督の選んだ作戦は「フォースボーク」。野球エリートの中日・立浪和義監督(53)も予期していなかった、斜め上から来る奇策のなかの奇策だった。

 フォースボークとは、1 塁ランナーがわざと大きめにリードを取ることで牽制をもらい、ピッチャーが牽制動作をしたら3塁ランナーが本塁を狙う。プレートを外さない1塁への偽投はボークとなるため、ピッチャーは確実に1塁に牽制しないといけない。3塁ランナーの動きに気付いてホームに投げればボークになる。つまり強制的に(フォース)ボークを誘うという戦術である。

「新庄監督は1・3塁の場面になると、好んで重盗のサインを出します」(前出・スポーツ紙記者)

 ただ、「重盗」と、フォースボークは仕掛け方が異なる。重盗は1塁走者が先にスタートを切って、2塁盗塁を阻止するための捕手からの送球に反応して、3塁走者を本塁に投入する。しかし、フォースボークは順番が逆になる。

 中日先発の左腕、小笠原慎之介(25)がセットポジションの途中で1塁走者のほうを見た瞬間、3走・万波がスタートダッシュした。そのダッシュを見て、1走・上川畑大悟(26)が2盗を仕掛けた。小笠原は万波が走ったのを“空気”で察したが、1塁に牽制球を放るしかできなかった。1塁手・福田永将(34)は急いで本塁に送球しようとしたが、間に合わないと判断し、2塁に送球して1走・上川畑をアウトにした。

 もし、小笠原が3塁か、ホームに送球しようとしたら、ボークを宣告されていたはず。フォースボークは相手投手の「ボーク」を誘発するプレーだが、新庄監督はその可能性を残しつつも、ホームスチールと同じスピードで万波を走らせた。その1点が決勝点ともなった。

 試合後、新庄監督は久々に会見に応じ、「無い頭を振り絞って」と謙遜していたが、チーム関係者によれば、今春キャンプ中の取材シャットアウトの室内練習場でフォースボークの走塁練習もやらせていたそうだ。

「立浪監督は物凄く悔しがっていました。万波がホームインしたとき、新庄監督は両手を広げて迎え入れましたが、笑っている表情まで見せられていたら、立浪監督は大爆発でした」(中日担当記者)

 マスクで表情が見えなかったから、トリッキーな作戦も悟られなかったのだろう。日本ハムのチーム打率は2割2分4厘でリーグワースト。しかし、総得点210は4位なので、いかに効率良く積み重ねてきたかが分かる。

 盗塁34はリーグ4位だが、失敗を含む盗塁企画数62はダントツの1位だ(6月18日終了時点)。その28個の盗塁失敗には、中日ベンチを混乱させたフォースボークに伴う上川畑のアウトも「2盗失敗」としてカウントされている。数字のウラに秘められた新庄イズムだ。奇策を具現する選手たちを見ていると、中盤戦以降の日本ハムはブキミである。

 奇策はファンを喜ばせるが、やられた側は怒り心頭となる。相手陣営を怒らせないためにも、マスク着用は続けたほうが良さそうだ。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。