藤波朱理が吉田沙保里の連勝記録を抜く 敗れた東京五輪王者・志土地真優の胸の内は?
レスリングの全日本選抜選手権(明治杯)が6月15日から18日まで東京体育館(東京・渋谷区)で開催された。注目の女子53キロ級では、藤波朱理(19=日本体育大)が決勝で同い歳の清岡もえ(育英大)を10対0のスコアで圧倒し、大会3連覇を達成。9月に行われる世界選手権(セルビア・ベオグラード)代表に内定した。ここで3位以内に入れば、早くも来年のパリ五輪代表が内定する。【粟野仁雄/ジャーナリスト】
【写真】「やりきった」と志土地真優(25)のすがすがしい笑顔
連勝記録は「特に何も思っていない」
藤波は前日の準々決勝で東京五輪チャンピオンの志土地(旧姓・向田)真優(25=ジェイテクト)にフォール勝ちし、準決勝も佐々木花恋(21=日本大)に1ピリオドでフォール勝ちする圧巻の強さを見せた。
藤波は中学2年の2017年9月から続く連勝を121に伸ばし、吉田沙保里(40=五輪3連覇)が持つ連勝記録119を抜いた。ちなみに、最高記録は五輪4覇の伊調馨(38=ALSOK)の189連勝、個人戦に限れば吉田が206連勝という記録を持つ。
しかし、藤波はそんな連勝記録にはまったく無頓着で、「特に何も思っていない。五輪で優勝することが自分の中で一番の目標なので」と語った。
パリ五輪については「優勝した瞬間、世界選手権で優勝する目標がすぐ浮かんだ。パリ五輪代表権を絶対に持ち帰りたい」と決意を述べた。
優勝会見では父・俊一さん(三重県立いなべ総合学園高校レスリング部監督)と並んでのインタビューもあった。藤波が「(俊一さんが)野菜スープを作ってくれたりする」と言うと、俊一さんは「スープじゃなくて鍋だよ」と笑って訂正した。
長身で長い手を生かしてタックルに入ることが中心だったが、父は「タックルから後ろに回るばかりでは駄目」と技のバラエティを増やさせた。この日、相手がタックルに来る瞬間に後ろへ飛ぶなど、研究成果が出ていた。相手選手に動きを研究されても、それを上回る研究と練習で寄せ付けない。この日、厳しいはずの父は愛娘への称賛一筋だった。「まだまだ伸びしろはあると思うし」と自ら語っていた娘について「本当にレスリング一筋で努力していますよ。テレビなんか見ているのも見たことないし」とも明かした。
昨年春、娘が三重県立いなべ総合学園高校を卒業し日体大に入学してから、父は東京と三重を忙しく往復する。会見後の放送局向けの取材に「私もオリンピックを目指した一人でしたが、果たせなかった。でも今、決して私の夢を娘に託しているのではありません。娘のやりたいことをサポートするだけです。一緒にそれができるのは幸せだと思います」などと話した。
「志土地選手のことを思わない日はなかった」
「パリ五輪期待の星」である藤波がこの大会で目指していたのは、なんといっても「打倒志土地真優」だった。「ずっとやってみたかった」という志土地とは、初戦(準々決勝)でぶつかった。
開始1分過ぎにタックルからバックを奪って先制。その後、志土地にタックルを受け止められて「がぶり返し」で返されて失点したが、逆転を許さず3対2でリード。少し疲れの見えた志土地を上から攻めまくり、残り23秒にはフォールした。ようやく起き上がった志土地の手を握り「ありがとうございます」と声を掛けた。世代交代を印象づける試合だった。
藤波は「(対戦が)楽しみだった。志土地選手のことを思わない日はなかった。あの人を倒したいと思ってここまで頑張ってきた」と素直に明かした。
志土地は「(2ピリオドで)タックルへの対応が遅れてしまった。彼女のほうが強かったです」と藤波への完敗を認めた。しかし「この気持ちのままで終わるのは悔しい。すぐに(気持ちを)切り替えられるかわからないけど、次に向けてしっかり休んで考えたい」などと涙目で話した。
昨年の天皇杯(全日本レスリング選手権大会)と今回の明治杯で共に3位となったことでプレーオフに出る資格も失い、パリ五輪への望みは完全に消えてしまった。「勝って恩返ししたかった」と至学館大学時代から指導を仰ぎ京五輪後に結婚して二人三脚で歩み続けた夫の翔太コーチへの想いも話した。気持ちを切り替え翌日の3位決定戦では圧勝し、貫禄も見せた。
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