認知症最大のリスク「難聴」をいかに防ぐか 若者世代がより危ない理由とは

ドクター新潮 ライフ

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 脳トレに勤(いそ)しみ、手先を動かす。現代の“難病”たる認知症の予防に励んでいる方は少なくあるまい。だが、認知症の最大のリスク因子は実は「難聴」。65歳以降でも間に合い、「耳」を良くすると「目」に関連した認知機能まで改善されるという難聴対策を専門家が指南する。

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 そうはいっても「65歳の壁」を越えることはできないのか――。

 2017年に発表され、20年に改訂されたふたつの論文が、認知症の研究の世界に衝撃を与えました。英国ロンドン大学の教授らが、世界五大医学誌に数えられる「Lancet」に〈生活習慣などを改善することで認知症の発症を約40%防ぐ、あるいは遅らせられる〉との研究結果を発表したのです。その画期的な論文には、12の認知症リスク因子が挙げられ、それらを改善することができれば「40%」の低減が可能であると記されています。

 そして、合計すると40%になる12のリスク因子のなかでも、「教育不足(7%)」や「喫煙(5%)」、「うつ(4%)」をしのぎ、8%を占める最大のリスク因子は、私が専門としている「難聴」でした。より正確に言うと、「中年期の難聴」を放置せずに改善できれば、認知症発症リスクを8%下げられると報告されています。極めて有用な朗報でした。

本当に65歳を超えたら手遅れ?

 しかし、あえて悲観的に見れば、こう捉えることもできるかもしれません。中年期とは45~65歳を意味するため、結局のところ65歳を過ぎてから難聴対策をしても認知症予防にはつながらないのではないか、65歳を超えたらもう手遅れなのではないか。

 そこで私たちは、ある臨床試験を行うことにしたのです。

〈こう説明するのは、国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター聴覚障害研究室長の神崎晶医師だ。

 慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科やミシガン大学クレスゲ聴覚研究所で、難聴等の治療・研究を続けてきた日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医である神崎医師は、近年、「聴覚障害と認知症の関係」についての研究に力を入れている。

 そんな神崎医師が、臨床試験報告の前に、まずは「難聴」がもたらす健康阻害リスクを詳しく解説する。〉

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