殺虫剤から「感染症トータルケアカンパニー」へ――川端克宜(アース製薬社長)【佐藤優の頂上対決】

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「お客様相談室」改革

佐藤 川端さんは2014年に42歳の若さで社長になられました。もう10年がたちます。

川端 多くの会社では、3年から5年くらいで社長が代わりますね。でも前社長は「3年や5年では社長の仕事はできないよ」と言っていました。私を指名したのも、普通に行けば長くやれるから、という面がありましたね。

佐藤 その間に、さまざまな組織改革をされてきています。例えば、社長直轄の「お客様のお気づきを活かす窓口部」を作られた。

川端 お客様相談室のことですが、ネーミングは非常に大事です。一般的にお客様からのクレーム対応をする部署のイメージがあるため、そこに人事異動となったら少し構えてしまうこともあると思います。

佐藤 お客様相談室のままならそう考える人もいるでしょうね。

川端 そこからチェンジしないといけなかった。それで社長直轄にしましたし、いろいろ考えて、その部署名にしました。

佐藤 川端さんご自身が考えられた言葉なのですね。

川端 はい、名乗る時に大変です、と言われましたね。実際問題、ここは非常に大事な部署です。弊社はメーカーで、店舗を持っていませんから、お客様と直接話ができるのはここだけです。

佐藤 クレーム処理は大変でしょう。

川端 実は、クレームは15%前後です。多くは、商品の使い方や販売店の場所などの問い合わせで、商品について「気づき」をいただけることがあります。

佐藤 それを取り込むわけですね。

川端 それが一番のマーケティングです。どういう調査をしたって、「アース製薬です、調査をお願いします」と言ったら、フィルターがかかるに決まっています。それなしにナマの声が聞けるわけですから。

佐藤 何人くらいの部署ですか。

川端 約30人です。

佐藤 それは大所帯ですね。これまでにどんな意見が商品に反映されましたか。

川端 例えば、モンダミンのキャップです。ふたが開けにくいと、ご高齢の方からご意見をいただいた。その時は丸いキャップでした。それを八角形にしました。

佐藤 指に掛かりやすくしたのですね。

川端 金型を変える必要があり、コストがかかりますが、見た目にはほとんど変わりません。でもこうしたちょっとした積み重ねが大事だと思います。

佐藤 川端さんの発言に「売れる商品にも完璧なものはない」というものがありましたが、その言葉通りですね。

川端 私の考え方のベースにあるのは、アース製薬の川端である前に一消費者だということです。弊社の商品でも他社の商品でも完璧だと思ったものは一つもありません。また、それが完璧だと思って出すのはいいのですが、その完璧はその時だけのことでしかない。

佐藤 また、ヒットすれば、すぐそれに似た商品が出てきます。

川端 ええ。完璧だと考えてしまうと、手が止まって次が出てこなくなる。結果として遅れをとってしまいます。

佐藤 確かに日本の商品にはいくつかそうした例がありますね。ワープロの完成度が高くなければもっと早くパソコンに移行できたと思いますし、日本の携帯電話もあそこまで進化しなければ、ガラパゴス化しなかった。

川端 おっしゃる通りです。だから発売した瞬間から、もう新商品ではないという考え方を持つように、と社員には言っています。やっとの思いで発売したのはよくわかります。でもそこで止まってはいけない。

佐藤 売れてもそこに安住するな、ということですね。

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